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私立校の難点は、学区で区切られてないことにあると思う。 もちろんそれは、100%悪いことじゃない。 だって地元の公立校に通ってたら、今の友人たちとは出会えなかったかもしれないんだから。 学区に縛られなかったおかげで、わたしはいくつもの大切な出会いを得ることができた。 それについては、感謝しても、し足りないくらいである。 でも、そうした出会いを経た上で問題になるのも、やっぱりそれなのよね。 と、いうのも―― 「あのー……どうもわたし、見てるだけで体力奪われてく感じなんですが」 「まったくだよ。まさか、これほどすごいとはね」 「毎年ニュースでこういうの見てたけど、やっぱ直に見ると、迫力が違うなー!」 呆然と呟くわたしのすぐそばで、どこか感心したように言う不二先輩。 菊丸先輩に至っては、お祭り気分で目をキラキラと輝かせている。 ……まあ、実際お祭りみたいなもんだからしょうがないか。っていうか、菊丸先輩でもニュース見るんですね。 そんな、口に出したら怒られそうなことを心の中で言ってると、1人だけみんなと違う方向を見ていた越前が、視線をそのままに口を開いた。 「ねえ、あれってテレビカメラじゃないっすか?」 「マジマジ!? どこだよ越前!」 「ちっ、テレビカメラぐらいで騒ぐんじゃねえよ、みっともねえ」 新年早々、桃と海堂くんはいつも通りの険悪ムード。 っていうか、テレビカメラって……? ああ、ニュース用の映像でも撮ってるんだな。 「年明け直後でもあるし、今が一番すごいんだろう」 「うわー……大変な時に来ちゃったんだなあ、俺たち」 こんな時でも、手塚部長は冷静だなあ。 いや、わざわざ慌てふためく要素は特にないんだけどさ。でも大石先輩みたいに、ちょっとは驚きを面に出したりしてみない? ……って、無理な相談か。 そうしたことを思いつつ苦笑い。 すると、そんなわたしに心配そうなまなざしが向けられた。 「ちゃん、さっきから何だかしんどそうだね。大丈夫?」 河村先輩にそう言われ、わたしはちょっとビックリする。 テンション落ち気味なのは自覚してたけど……わたしってば、そんなにつらそうな顔してる? 「大丈夫ですよ。あまりのすごさに、ちょっと圧倒されちゃっただけで」 「ほんとに平気? 気分悪くなったらちゃんと言うんだよ」 「はい。ありがとうございます」 優しいなあ、河村先輩。ほんといい人だなあ。 ……こんな優しくていい人が、何でラケット持ったらああなるんだろう? 現実逃避気味にそんなことを考えてたら、今度は頭上から響いてきた低い声に意識を引っぱられた。 「不景気の時は、神社仏閣は繁盛するものだ。困ってる人たちは、もう神頼み以外することがないからね」 「……ってことは、ただでさえ人が多いのに、不景気のせいで余計に人が来てるってことですか?」 「いや、あまりに不景気が続きすぎて、最近は神頼みする人間も減少傾向にあるらしい。どんなに拝んでも、一向に景気は上向きにならないからな。そのせいで、赤字になる神社や寺も少なくない。この神社にしたって、去年の同時期の参拝客より7.2%は減っている」 いっそ72%減ってくれたら楽だったのに……。 乾先輩の話を聞きながら、そんなことを思ってみる。 でも、思ってみたってそんなのは無理な話だ。 何にしても、本当に―― 「すごい人だなあ……」 目の前の光景に、あらためてわたしはそう呟いた。 時計を見れば、針は午前0時を少し回ったところを示している。 普段であれば、しっとりとした静かな闇夜が支配する時刻。 しかし人々は、その支配をはねのけた。 わたしたちもそれに逆らってるから、今こうしてこの場にいるんだ。 でも実際来てみると、夜の支配を受け入れて安眠してる方がよかったような気がしてくる。 それほどまでに現場は混沌と、そして雑然としていた。 「ほんと、見てるだけで疲れるわ……」 そうして溢れ返るほどの参拝客でにぎわう神社の参道を前に、テニス部のいつもの面々と初詣のつもりでやって来たわたしは、まだ何もしてないくせに、疲労の色をこれでもかと滲ませたため息をついたのだった。 冬休み。 短いながらも重大イベントが詰まったこの貴重な期間、有意義に過ごさなきゃバチが当たると思わない? そんなわけで、わたしたちテニス部一同は、みんなそろって初詣に来たのです。 そして今、カウントダウンを終えて、大晦日及び旧年を無事見送ったところ。 そう、ついに新年です。お正月です。あけおめで、ことよろなのです。 でも手塚部長にそう言ったら、「日本語は正しく使え」と、新年早々、いきなり怒られる羽目になった。くそう、いきなり今年の雲行きがあやしいぞ。 ……いや、思えば今回の初詣自体が、企画の段階であやしかったな。 日頃から仲の良い、テニス部一同。 そんなわたしたちが全員そろっての初詣を計画するのに、問題点は何もない――はずだった。 そう、ないと思ったものが実はあったのだ。 しかも、とても重大な問題が。 それがひょっこり出て来ちゃったのだ。 一体何が問題なのかっていうと、初詣にとって一番の要である神社。 つまり、どの神社にお参りに行くかということが問題になったのだ。 わたしたちの通ってる青春学園は、徒歩通学者もいれば電車通学者もいる、言うなれば、個人の通学時間にとても差のある私立校。 もちろん、それはテニス部の部員も例外じゃない。やたら学校に近い人もいれば、遠い人だっているわけだ。 なら、何でそれが問題になるのか。 んー、これもね、当初は大した問題じゃなかったのよ。 学校までの道のりならみんな行き慣れてるから、学校近くの神社がいいだろうって、一時はそこに決まりかけたの。 でも、ここで物申したのが我らが手塚部長。 ただでさえ夜間の外出は好ましくないのに、なおかつ遠出なんてとんでもないという、若者らしさに欠けるその発言のおかげで、当初の案は却下になっちゃったわけ。そりゃ、遠方から来る人たちを気遣ってのことなのはわかるけどさ……。 そんなわけで、全員の家から均等になる距離――つまり10人の家からの中間地点にあたる場所が好ましいってことになり、その条件を経て選ばれたのが、わたしたちがやって来たこの神社ってわけなの。 でも、まさかそこが、人出の多いことで超有名な神社だったとはね……。 初詣客でごった返すその様子は、毎年ニュースでも伝えられるほど。 、あまりの人の多さと醸し出される圧力に、早くも挫けてます。 でも平々凡々なマネージャーと、日頃から鍛練に励んでる正レギュラーとでは、やはり根本的に違っていた。肉体的にも精神的にも何のダメージも受けてない彼らは、ケロッとした顔で、あっさり言ってのけたのだ。 「いつまでこうしてるつもりだ? じっとしてても人は増えるだけだし、早く行った方がいいと思うぞ」 「そうだな。このまま混雑ぶりを見てたってしょうがないし」 「人が減るのを待ってるのも時間かかるしね」 「よし、行こう行こう! 俺、早くりんご飴食いたい!」 「英二、買うのは先にお参りを済ませてからだぞ」 「ちぇーっ、わかったよ」 口々に何か言い合いながら、動き始めるみんな。 「オラ、ボーッとしてんな。置いてくぞ」 「ボサッとしてたら迷子になるぞ。気をつけろ」 「先輩、時々鈍くさいもんね」 「まあ、はぐれた時には迷子の呼び出しでもかけてもらうさ」 「……その時は、普通に携帯で呼んでください」 とは言っても、ここまで混雑してると、携帯電話は通じにくそうだ。 でも、もしここではぐれたりしようもんなら、この人たちは本気でやる。 この歳で迷子の呼び出し放送かけられるなんて、そんな恥ずかしいこと、絶対ごめんだわ! ――って、そんなこと考えてる間にも、みんなってばわたしを置いて、サクサク先に進んでるし! 「ち、ちょっと、待ってよ!」 わたしは余計なことを考えるのをやめると、慌ててみんなの後を追いかけた。 さて、この後どうする? 1.じゃあ、早速お参りに行こう! 2.いや、ここはしばらく様子見を 3.ち、ちょっとたんま……
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