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さてと、初詣に来た以上、やはり最初にすべきはお参りでしょう。 けどねー……。 こうも人が多すぎると、実際に行動を起こそうって思うだけでも、かなり一苦労なのよね。 それでも何とかやる気を漲らせて、境内へと続く人々の大海原に、みんなと一緒に船出したわたし。 ……けど10秒もたたないうちに、あっさり1人戦線離脱した。 だって四方八方から押しつぶされて、息をするのもやっとだったんだもん。 混雑しつつも人はきちんと流れてるから、しばらく我慢してれば、いずれ境内まで行けたと思う。 でもあんなに苦しいんじゃ、きっと辿り着く前に窒息して、結局何もできないに違いないわ。 「越前のヤツ、大丈夫かなー」 わたしでこんな有様だもの。この中に飛び込んだメンバー内で一番小さい越前は、さぞ難儀してるでしょうね。無事帰ってきたら、その時は優しく労ってやるとしますか。 さてと……じゃあ、わたしはこれからどうしよう? この人混みの中じゃ団体行動は無理だろうからって、参拝時にはぐれることを想定して、待ち合わせ場所はすでに決めてある。 でも、今からそこに行くのはちょっと……。 せっかく来たんだし、やっぱお参りはしときたいじゃない。 せめてもう少し、人が減ってくれたらなー。 だって、今の状態の人混みをくぐり抜けるのは、絶対無理だもん。 しょうがない。 とりあえず10分ほど待ってみて、それで行けそうな感じになってたら行くことにしよう。 無理そうなら、残念だけどここでのお参りは諦める。 だってそれ以上待ってたら、多分先に行ったみんなが戻ってきちゃうだろうから。 つまり最悪の場合、わたしは初詣に行ったみんなを出迎えるためだけに、ここに来たことになっちゃうんだ。 あーあ。だから最初から、学校近くの神社にしとけばよかったのよ。 あそこならこじんまりしてて、ここまで殺人的に人が来ることはないんだから。 そりゃ、これだけ人が集まってにぎわってる方が、見た目的には楽しそうだけどさ。でも動きがとれないんじゃ意味ないもん。 そうしてわたしは、しばらく1人で様子を見ながら、参拝客の増減をうかがっていた。 そんな時である。 「ねえキミ、1人?」 ふいに聞こえた声に振り向けば、いつの間にやらすぐそばに、同世代の2人組の男の子が。 そこそこかっこいいんだけど、軽薄そうなのが見てとれて、第一印象は正直あまりよろしくない。 そんな彼らは、2人ともわたしの知り合いじゃない、初めて見る顔の人。 だけど2人が、親しげな視線を送る先にいるのは、なぜかこのわたし。 ……何で? 念のため、振り返って後ろを見てみるけど、彼らの知り合いらしき人物は見当たらない。 わたしは自分を指差すと、視線で彼らに訊ねてみた。 すると次の瞬間、なれなれしさ全開で、一気にこちらに詰め寄る2人。 「そう、キミだよキミ」 「見たところ1人じゃん。よかったら、俺らと一緒に遊ばない?」 ……ははーあ。 もしやこれは、ナンパというヤツですな? なるほど、ついにわたしも、見知らぬ男の子に声をかけられるほどの魅力に目覚めたのね。 でも残念ながら、あなたたちにつき合うわけにはいかないの。ごめんなさい。 「いや、連れとはぐれただけなんで」 言って、そそくさと立ち去ろうとしたわたし。 ところがそんなわたしの腕を、あろうことか、手近にいた1人が気安く掴んで引き止めた。 「じゃあ、連れの子も一緒でいいからさ」 そんなこと言っても、連れが男9人だと知ったら、さすがに気持ちは変わると思う。 「でも結構人数いるし、この後予定もあるから」 予定といっても、みんなで出店巡りするだけだけど。 っていうかさ、やんわり断ってんだから、いいかげん気づいてよ。 でもって、掴んだままの手も離せ。わたし、こういう軽い感じの男って、あまり好きじゃないんだから。 けど、最悪なことに、こいつらは空気の読めない男だった。 相変わらず、ヘラヘラ笑いながら、 「だいじょーぶ、人数増えてもかまわないって。こっちも連れ呼んで、メンバー増やすからさ」 「それに、こっちが予定に合わせるし。そしたら何も問題ないだろ?」 ありまくりだ! あーもー、しつこいな。 周りに女の子はたくさんいるんだから、わたしがダメでも、他の子のとこ行けばいいじゃない。 ……いや、まさか他の子がダメだったから、それでわたしのとこに来たんじゃないでしょうね。 そう思ったら、何だか本格的にムカついてきた。 わたしの勝手な想像にすぎないけど、でも何だかほんとっぽいじゃん。 「いいかげん手を――」 離せと、続けようとした時だった。 「おい、こんなとこで何してんだ?」 怖さの漂う、けれど、わたしにとっては親しみのある低い声が、この場に響く。 そして目の前の2人組は、声のした方を見た瞬間に強張った。 そこにはやたら威圧感を醸し出す、パッと見、怖ーいあの人が。 「海堂くん」と、彼の名前を呼んだその途端、 「も、もしかしてお連れさん?」 「だったら俺たち、いても邪魔なだけだよな。それじゃ」 あれだけしつこかったくせに、あっさり立ち去ってしまった。 ……ビビりすぎだよ。 とはいえ、海堂くんがいつもに比べて、凄みがあったのは事実。 どうやら、わたしが絡まれてると知って、助けに来てくれたみたい。 「ありがと、海堂くん。助かったよ」 「礼なら不二先輩に言うんだな。最初にを見つけたのはあの人だ」 言って海堂くんが示す先には、のんびりこちらに歩いてくる、不二先輩と越前の姿が。 っていうかさ……。 「そのわりに、見つけた本人が、今頃ゆっくりご登場なのは何で?」 「だって海堂1人の方が、うまく片づくと思ったから」 「実際、あっという間だったしね。さすが海堂先輩」 到着すると、のほほんとそんなことを言う2人。 まあ確かに、一見優男な不二先輩と、チビっ子な越前がいたんじゃ、迫力に欠けるか。 そんなことを思った瞬間、いきなり開眼する不二先輩。 「……今、何か失礼なこと考えなかった?」 「いえいえ滅相もない! そ、それより越前、大丈夫だった?」 不二先輩から逃れるために、勢いよく越前に話をふるわたし。 でも越前は、何を言ってるのかわからないって感じで、 「何がっすか?」 「いやほら、すごい人だったじゃん」 「平気っすよ、別に」 「ほんとにー?」 わたしの経験からいっても、越前は絶対苦労してるはずなのに。 でもなぜか当人は、意外にケロッとしてるのよね。 疲れとかも感じられない。あの人混みを突き進んで、それはおかしいと思う。 そうだ。あの人混みの中を出かけたわりには、みんな帰ってくるの早すぎじゃない? まさか、疲れるしめんどくさいからって、境内まで行ったふりしてるんじゃないでしょうね。 思わず、そんな疑いを抱いたわたしだけど、それでも越前の意見は変わらない。 「ほんとに何も。不二先輩や海堂先輩と一緒だったけど、別に困ることなんかなかったし」 「ああ。隣の人が派手にぶつかってきたりしたけど、海堂がチラッと見ただけで、道あけてくれたしね」 ……それ絶対、「チラッと見た」のと違う。 でもこれで、ようやく納得。 「そうかー、わたしも海堂くんと行ってれば、ちゃんとお参りできたんだー」 「おまえな……」 あ、海堂くん、ものすごく不本意そう。 そうだよね、キミは別に睨もうと思って睨んでるわけじゃないもんね。 でもわたしだって、好きで行かなかったわけじゃないんだから。 そうよ、ほんとは行きたかったんだから! そう思ったら、不二先輩や越前から苦労を取り払う恩人になった海堂くんが、だんだんムカついてきた。 何であんたは、あの2人じゃなくて、わたしのそばにいなかったのよ! ええ、どうせ初詣を全うできなかった人間の、ただの八つ当たりですとも。でもでも、やっぱり悔しいのよ! 「あーもーっ、人がすごくてお参りできないし、変なのにはナンパされるし、これじゃ何しに来たんだかわかんない! 今年の初詣は散々だー!」 周りの迷惑も顧みず、憂さ晴らしに叫びまくるわたし。 そんなわたしを、面白そうに見やる不二先輩と、困ったようにため息をつく海堂くん。 ただ1人、越前だけが他人のふりをするべく距離をとり始めたけど、みすみす逃がすわけもない。そんなわけで、ガシッと捕獲。 そうしてしばらく、3人相手にぐちぐち言ってたんだけど、しばらくしたらふいに越前が口を挟んできた。 「あのさ、ずっと思ってたんだけど……」 「何よ、何かあるなら言ってごらん」 未だに機嫌の悪いわたしにちょっと肩をすくめつつ、けれど越前はさらっと言った。 「無理して神社にしなくても、最初から俺ん家に来てたら、面倒がなかったんじゃ……?」 「「「あ」」」 その言葉に、思わず顔を見合わせるわたしたち。 そういえば、越前の家は寺だった。 神社じゃないけど、でも寺だから鐘がある。つまり、除夜の鐘がつける。これはこれで、なかなか面白そう。 それに遅くなったとしても、その時は越前の家に泊めさせてもらえばいいんだし。 大人数だけど、寺なら広いから隅っこを貸してもらうだけで、十分事足りるはず。 「その手があったね」と不二先輩。 「なるほど」と海堂くん。 わたしと同じことを思ったらしい2人が、即座に頷き合う。 でも、今さら遅い。遅すぎる。 「もーっ、何よーっ! そんないい案があるなら最初から言いなさいよねーっ!!」 にぎわう神社に、わたしの絶叫がさらにこだました。 「まあまあ、ちゃん。クレープ買ってあげるから、機嫌直して」 「そ、そうだな。越前の家だったら、出店なんてねえし」 「あったら逆におかしいっす。でもせっかくだし、今からみんなで家来ますか?」 「えっ、いいの!?」 突然の展開ではあったけど、それでもこの申し出は嬉しかった。 だってこれでわたしも、一時は諦めた、正月ならではのイベントが堪能できるんだもの。 そんなわけで、この後みんなと合流して、さっそく越前の家へGO! なのです。 ただ、深夜ということもあって、部長はかなり渋い顔をしてたけど、お参りできなかったわたしがあまりにもカリカリしてたんで、さほどうるさいことは言われずにすんだ。 実は、最初の3人に会った時に、怒れるだけ怒ったんでかなり落ち着いてはいたんだけど、それだときっと、部長や大石先輩に「越前の家の人たちにご迷惑だろう」って説得されて終わりだろうからって、不二先輩に、さっきの勢いで押した方がいいとの助言をいただいたのです。で、それを実行して、成功したと。 そりゃね、わたしもこんな時間にいきなり行ったら、迷惑かなーと思わなくもなかったわよ。 でもでも、それでも行きたかったんだもん! けど、そんな悪の囁きに耳を貸してしまった報いか、後で不二先輩にご馳走になったクレープは、食べてるうちに生地が破れて、中のクリームが溢れ出すという大惨事に見舞われた。 そんなわけで、今さらですが懺悔します。 越前家の皆さん、夜遅くに押しかけて、本当にすみませんでした。 でも、とっても楽しかったです。 あと、鐘って、力まかせに叩けばいいってもんでもないんだね……。 ああ、耳がジンジンする。 −END−
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