「……反抗期?」
「違います。ウザいんです」


 かわいい後輩をグリグリ撫で回そうとしたら、全力でその手を振り払われてしまった。



青学テニス部素敵生活 07



「ああ、ダメだって。今日の越前は機嫌悪いから」


 ここまで露骨に拒絶されたことはなかったので、思わずポカンとしていたら、桃が笑いながらおしえてくれた。


「なんで?」
「いやー、さっき堀尾に聞いたんだけどなー」


 そんな桃を、鋭く睨む越前。
 でもそんなのはどこ吹く風で、変に笑顔な桃は、


「身体測定の結果がイマイチだったってよ。それで今日は、ずっとこの調子らしいぜ」
「ああ……」


 それを聞いて、申し訳なく手を引っ込めるわたし。
 結果が芳しくなくて、越前が機嫌を損ねるものといえば、1つしかない。


「ごめんね、越前。わたしがあんまりグリグリやるから、そのたびにめり込んで、背が伸びなかったんだね」
「本気で言ってる? だとしたら先輩、本格的に頭おかしいね」


 でもそれは、越前にとって、茶化していい問題じゃなかったみたい。


「ごめんってば。でも、そんなの気にすることないって。男の価値は身長じゃないよ」
「その言い方で、気にするなってのもな……」


 近くにいた海堂くんが、思わずといった感じで、ボソッと呟く。
 それを証明するように、かわいい後輩の頭を撫でようとのばした手は、再度「触らないでよ」と払いのけられた。


 越前って結構、小さいこと気にしてるんだよね。
 何しろ周りは、程よく成長した人たちばかり。そんな中にいたら、自分との対比が際立つから、わからなくもないけど。

 だからこうした、頭を撫でたりとかの、あからさまな子供扱いも嫌がるんだ。
 普段はウザそうにしつつも好きにやらせてくれるけど、最新の数値が出た今は、ちょっと敏感になってるみたい。

 でもわたしからすると、越前は気にしすぎだと思う。


「いいじゃん、別に。どうせ、あんたがわたしより小さいのなんて、今だけなんだから」


 そう、この時期の男の子なんて、すぐに大きくなってしまう。
 すると、今後の成長を暗に示したからか、越前の不機嫌顔が少し和らいだ。


「今だけ?」


 わたしは頷く。


「そう、今だけ。だって桃も海堂くんも、わたしを裏切って、あっという間に大きくなっちゃったのよ」
「裏切ってって……」
「おまえなあ……」


 その言い分に、桃と海堂くんは、揃って心外だという顔を向けた。

 まあ、裏切りって言い方はおかしいよね。
 でも、2人がぐんぐん伸びてるのに、わたしだけさほど変化がないなんて、なんか寂しいんだよ。


「けど、成長なんて個人差あるじゃん」


 かつての寂しさを思い起こし、恨みがましく同級生たちを見ていたら、越前に変なフォローをされてしまった。


「つまり、先輩にもまだ可能性が――」


 越前の前向きな言葉を、けれどわたしは途中で遮る。


「確かに、否定はできない。でも、口で言うほど簡単には背が伸びないこと、あんたならよーくわかるはずよ、越前」
「くっ……」


 わたしの言葉に、越前は悔しそうに口を噤んだ。

 たとえ成長期という、強力な味方がついていても、希望通りの成長は難しい。
 それに、わたしとみんなは違う。そこには男女差という、打ち崩せない壁があるのだ。


「そりゃ、今の時期に背が伸びる女子は少ないけど、先輩もまだわからないじゃん」


 いや、自分の伸びしろがもうないことは、わたしが一番よくわかっている。
 けど、身長問題に対する越前は熱かった。たとえ、普段小馬鹿にしているわたしが相手でも、伸び悩む姿は見過ごせなかったらしい。


「じゃああんた、わたしが卒業するまで、今と同じ身長差でいなさいよ。あんたの背が伸びた上、わたしの背も伸びるってことは、そういうことなんだからね」


「はあ?」という、桃と海堂くんの間抜けな声が耳を突く。
 それを聞いて、わたしは思った。
 自分で言っといてなんだけど……さすがに、今のは無茶すぎるな。

 そして、わたしを気遣いつつあった越前の態度は、この発言であっさりと消え去った。


「さすがにその頃には、俺の伸びが上回って、差が縮まってると思うけど。むしろ、逆転してるんじゃない?」
「ふんっ、裏切り者の後輩は、やっぱり裏切り者ね」
「いや、ちょっと待て、。さすがにおかしくなってきたぞ」
「そもそも、何でそんなに越前に絡むんだ」


 何でって、うらやましいからに決まってる!

 越前は、今現在は小さいけど、だからこそ可能性の塊なんだ。
 一方、わたしの成長はそろそろ打ち止めのようで、諸々の数値が停滞気味。まあ、座高辺りはそのままでかまわないけど。

 でも、どれだけ切々と訴えようと、わたしの気持ちは、彼らにはあまり伝わらないらしい。


「つーか、女子の成長はそんなもんだろう?」
「なによ、男尊女卑!?」
「なんでそうなるんだ! 俺が言いたいのは、女子は小学生時代に、一足早く大きくなるってことでだな」


 思わぬ噛みつかれ方をして、海堂くんはしどろもどろ。
 そして桃は、興味なさげに、


「まあ、はそれで完成したんじゃね? 身長どころか、もう他の場所も成長してねえだろ?」
「他の場所ってどこよ?」
「どこって、そりゃ……」


 何気なく向けられた彼の視線は、わたしの顔から下に行ったところで止まり――って、


「エッチ! 変態! セクハラ! 男子テニス部は汚れてる!」
「なっ……変なことを大声で叫ぶな!」


 胸を押さえて大きく距離をとったら、今度は桃が慌ててしどろもどろ。
 そんなわたしたちを……っていうか、わたしを見て、越前は疲れたようにため息をつき、


「ようするに、先輩はまだまだってことっすね」
「変なまとめ方しないで! あ、でも、まだまだってことは、こっちは可能性があるってことね!」


 こっちっていうのは、夢と希望に溢れている、女子の象徴。


「すんません。やっぱ今のなしで」
「なんだとー!?」


 相変わらず、かわいらしさの欠片もない、かわいくない後輩だ。

 越前の成長期が、いつどんなふうにやってくるかはわからない。
 でも、せめてもうしばらくは、かわいい後輩でいてくれないかな。
 中身のかわいさは求めないから、せめて身長くらいはさ。

−END−

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 男の子の豪快な成長は、目を瞠るものがあるよね。

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2011.03.01


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