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「……反抗期?」 「違います。ウザいんです」 かわいい後輩をグリグリ撫で回そうとしたら、全力でその手を振り払われてしまった。 「ああ、ダメだって。今日の越前は機嫌悪いから」 ここまで露骨に拒絶されたことはなかったので、思わずポカンとしていたら、桃が笑いながらおしえてくれた。 「なんで?」 「いやー、さっき堀尾に聞いたんだけどなー」 そんな桃を、鋭く睨む越前。 でもそんなのはどこ吹く風で、変に笑顔な桃は、 「身体測定の結果がイマイチだったってよ。それで今日は、ずっとこの調子らしいぜ」 「ああ……」 それを聞いて、申し訳なく手を引っ込めるわたし。 結果が芳しくなくて、越前が機嫌を損ねるものといえば、1つしかない。 「ごめんね、越前。わたしがあんまりグリグリやるから、そのたびにめり込んで、背が伸びなかったんだね」 「本気で言ってる? だとしたら先輩、本格的に頭おかしいね」 でもそれは、越前にとって、茶化していい問題じゃなかったみたい。 「ごめんってば。でも、そんなの気にすることないって。男の価値は身長じゃないよ」 「その言い方で、気にするなってのもな……」 近くにいた海堂くんが、思わずといった感じで、ボソッと呟く。 それを証明するように、かわいい後輩の頭を撫でようとのばした手は、再度「触らないでよ」と払いのけられた。 越前って結構、小さいこと気にしてるんだよね。 何しろ周りは、程よく成長した人たちばかり。そんな中にいたら、自分との対比が際立つから、わからなくもないけど。 だからこうした、頭を撫でたりとかの、あからさまな子供扱いも嫌がるんだ。 普段はウザそうにしつつも好きにやらせてくれるけど、最新の数値が出た今は、ちょっと敏感になってるみたい。 でもわたしからすると、越前は気にしすぎだと思う。 「いいじゃん、別に。どうせ、あんたがわたしより小さいのなんて、今だけなんだから」 そう、この時期の男の子なんて、すぐに大きくなってしまう。 すると、今後の成長を暗に示したからか、越前の不機嫌顔が少し和らいだ。 「今だけ?」 わたしは頷く。 「そう、今だけ。だって桃も海堂くんも、わたしを裏切って、あっという間に大きくなっちゃったのよ」 「裏切ってって……」 「おまえなあ……」 その言い分に、桃と海堂くんは、揃って心外だという顔を向けた。 まあ、裏切りって言い方はおかしいよね。 でも、2人がぐんぐん伸びてるのに、わたしだけさほど変化がないなんて、なんか寂しいんだよ。 「けど、成長なんて個人差あるじゃん」 かつての寂しさを思い起こし、恨みがましく同級生たちを見ていたら、越前に変なフォローをされてしまった。 「つまり、先輩にもまだ可能性が――」 越前の前向きな言葉を、けれどわたしは途中で遮る。 「確かに、否定はできない。でも、口で言うほど簡単には背が伸びないこと、あんたならよーくわかるはずよ、越前」 「くっ……」 わたしの言葉に、越前は悔しそうに口を噤んだ。 たとえ成長期という、強力な味方がついていても、希望通りの成長は難しい。 それに、わたしとみんなは違う。そこには男女差という、打ち崩せない壁があるのだ。 「そりゃ、今の時期に背が伸びる女子は少ないけど、先輩もまだわからないじゃん」 いや、自分の伸びしろがもうないことは、わたしが一番よくわかっている。 けど、身長問題に対する越前は熱かった。たとえ、普段小馬鹿にしているわたしが相手でも、伸び悩む姿は見過ごせなかったらしい。 「じゃああんた、わたしが卒業するまで、今と同じ身長差でいなさいよ。あんたの背が伸びた上、わたしの背も伸びるってことは、そういうことなんだからね」 「はあ?」という、桃と海堂くんの間抜けな声が耳を突く。 それを聞いて、わたしは思った。 自分で言っといてなんだけど……さすがに、今のは無茶すぎるな。 そして、わたしを気遣いつつあった越前の態度は、この発言であっさりと消え去った。 「さすがにその頃には、俺の伸びが上回って、差が縮まってると思うけど。むしろ、逆転してるんじゃない?」 「ふんっ、裏切り者の後輩は、やっぱり裏切り者ね」 「いや、ちょっと待て、。さすがにおかしくなってきたぞ」 「そもそも、何でそんなに越前に絡むんだ」 何でって、うらやましいからに決まってる! 越前は、今現在は小さいけど、だからこそ可能性の塊なんだ。 一方、わたしの成長はそろそろ打ち止めのようで、諸々の数値が停滞気味。まあ、座高辺りはそのままでかまわないけど。 でも、どれだけ切々と訴えようと、わたしの気持ちは、彼らにはあまり伝わらないらしい。 「つーか、女子の成長はそんなもんだろう?」 「なによ、男尊女卑!?」 「なんでそうなるんだ! 俺が言いたいのは、女子は小学生時代に、一足早く大きくなるってことでだな」 思わぬ噛みつかれ方をして、海堂くんはしどろもどろ。 そして桃は、興味なさげに、 「まあ、はそれで完成したんじゃね? 身長どころか、もう他の場所も成長してねえだろ?」 「他の場所ってどこよ?」 「どこって、そりゃ……」 何気なく向けられた彼の視線は、わたしの顔から下に行ったところで止まり――って、 「エッチ! 変態! セクハラ! 男子テニス部は汚れてる!」 「なっ……変なことを大声で叫ぶな!」 胸を押さえて大きく距離をとったら、今度は桃が慌ててしどろもどろ。 そんなわたしたちを……っていうか、わたしを見て、越前は疲れたようにため息をつき、 「ようするに、先輩はまだまだってことっすね」 「変なまとめ方しないで! あ、でも、まだまだってことは、こっちは可能性があるってことね!」 こっちっていうのは、夢と希望に溢れている、女子の象徴。 「すんません。やっぱ今のなしで」 「なんだとー!?」 相変わらず、かわいらしさの欠片もない、かわいくない後輩だ。 越前の成長期が、いつどんなふうにやってくるかはわからない。 でも、せめてもうしばらくは、かわいい後輩でいてくれないかな。 中身のかわいさは求めないから、せめて身長くらいはさ。 −END−
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