梅雨の季節になると、屋外の運動部は、軒並み外で動けなくなる。
 そのため、雨の影響を受けて活動が制限されたテニス部は、やむなく校舎内の一角で、地道な筋力トレーニングをすることになった。

 それは別にいいんだけどさ。


「もー! なんでマネージャーのわたしまで、筋力強化運動しなきゃいけないのー?」
「1人余って、ペアが組めなかったんだから、しょうがないだろう。それにあれを続ければ、胸筋の発達を促して、胸の形がキレイになるぞ。ちゃんと、のためにもなるじゃないか」
「セクハラですよ、乾くん」



不快指数の高まる中で



 そんなやむを得ない事情のせいで、今日の部活は、わたしまで余計な運動をやらされた。

 そりゃ、1人余ったならしょうがないけど、でもそういう時は、1組だけ3人になってもいいんじゃないかな。マネージャーは、あくまでマネージャーなんだから。


 そんな本日の活動内容を、ぶつぶつ言いつつ、部誌に書き込む。
 でもその際、髪が頬につきまとい、うっとおしいことこの上ない。

 じっとしてるだけでも汗をかくんだから、この季節って本っ当に嫌!
 カラッと爽やかに汗をかくなら、まだ我慢できるけど、湿気のせいで、どうやったってジメッとするから、本当にたまらないんだ。


 雨は降り続くわ、暑さで蒸すわ、おかげでイライラして、なかなか書くことがまとまらない。
 その間にみんなは帰っちゃうし、なのに乾がチャチャ入れてくるから、全然作業がはかどらなくて。

 でも乾は、そうやってしゃべりながらも、自分のデータのまとめ作業を、淡々とこなしてるのよね。
 なんで、涼しい顔して、さくさく脳みそ動かせるんだろ。

 そんなことを思いつつ、わたしは顔にかかる髪をかき上げて、再度自分の作業を始めた。



 ……でも、やっぱりはかどらない!



 だって自分の髪が、心底うっとおしいんだもの!

 最近忙しくて、なかなか美容院に行けなかったから、いつもに比べて、ずっと髪がのびてるんだ。
 そこへ梅雨時ならではの湿気が加わって、変な跳ね方をする上、やたらまとわりつく始末。
 何より面倒なのは、中途半端な長さだから、耳にかけても、すぐにバサッと落ちてくること。

 あいにく、ピンやゴムを持ってなかったので、髪をどうにかする術がない。
 だから、耳にかけては落ちてというのを、ひたすら繰り返す。


 そうした頻繁な動きが、目についたんだろう。

 隣の席からそれを見てた乾が、何を思ったか、ふいにわたしの顔に手をのばしてきた。
 そして髪を一房掴むと、耳の近くで、軽く押さえてとめる。

 でもわたしは、何の前触れもなく、ふいに耳と髪に触れられたので、驚きのあまり固まってしまった。


「な、なな、何?」
「いや、髪が邪魔そうだったから、押さえておいてやろうと」


 それはどうもご親切に……って、思うわけないじゃん!
 いくら普段仲が良くても、いきなり女の子の顔に触るのって、ちょっとどうかと思うよ。

 だから、乾の手から離れようと、少し後ろに身を引いたのに。
 なのになぜか、乾の手も一緒についてくる。


 じめじめして暑苦しいせいで、全体的に汗ばんでいるのに。
 何もこんな時に、触れてこなくてもいいじゃない。
 だってわたし、普段はもうちょっと、サラッとしてるのよ。

 って、別に、「普段なら触られてもOK!」とか、そういうことでもなくて!


「顔真っ赤だぞ、
「あ、あんたがそんなふうに触るからでしょ!」


 だから離れろ。

 乾なら、そのニュアンスを感じ取って、すぐに離れてくれると思った。
 でも予想に反して、彼は大真面目に、こんなことを言ってきたんだ。


「じゃあ、どういうふうに触ったらいい?」


 ど、どういうふうに触るって……。


「いや、そもそも触る必要ないじゃん」
「俺が触りたいんだから、しょうがないだろ」


 そうか、じゃあしょうがないか――って、いや、やっぱりこんな蒸し暑い時期に、わざわざわたしを引き寄せて密着するのは、どうかと思うよ。

 そもそも、なんで乾は、今わたしを抱きしめてるの?


「好きなんだ、のこと」


 ……じゃあ、しょうがないか。
 だって、そう言われてあっさり納得できるくらい、わたしだって、乾のことが好きなんだもの。


 でも、1つだけお願い。
 身綺麗にしてない時に触れられる、女の子のいたたまれなさは、知っておいてもらいたいな。


−END−


+------------------------------------------------------------+

 今年の梅雨は終わったけど、それでもまだ、ジメジメな日々は終わらない。

+------------------------------------------------------------+

2008.07.31

back