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ずっと前から好きだった人に、「ずっと前から好きだったんだ」と言われたのは、つい先日のこと。 つまりその瞬間、わたしたちが相思相愛なことが判明したわけで。 そんな重大事実が明るみに出れば、この後にくる展開は、やっぱ1つっきゃないでしょう! ――とまあそんなわけで、わたしと乾貞治は、晴れてお付き合いすることと相成りました。2週間前に誕生したばかりの、鮮度いっぱい、ラブラブカップルなのよん♪ そして間もなく、わたしは彼女という立場での、初のイベントを迎えるのです。 それは彼氏である乾の、15歳の誕生日。 ところが、これが意外なまでに難関でして。 というのも、ぶっちゃけ何をあげたらいいか、さっぱりわからないのです。 そもそも男の子にプレゼントなんてしたことないから、どんなものが喜ばれるかってのが、イマイチ掴めないのよね。 とりあえず、わたしのクラスメイトで、乾とも親交のある不二と菊丸に相談してみたところ、 「そんなの簡単じゃない。ホラ、首のところにかわいくリボンでも巻いてさ」 「そうそう。『プレゼントは、ア・タ・シ☆』ってね!」 ……相談する相手を間違えたと思いました。 そりゃね、わたしは乾のこと好きだし、乾とだったらいつかそういうことになっちゃってもいいかなーなんて思ったりもするんだけど……。 でもでもっ、だからって、つき合って2週間でそれはどうかと思うのよ! わたしとしては、もっとこう、じっくりと愛を熟成させたいわけ! で、今目の前に控えてる問題は、そのための大事な一歩でもあるわけですよ。 つまり、乾の誕生日プレゼントを何にするか? ――って、結局フリダシに戻ったんじゃない! しかもわたしってば、愛の熟成とか、何言ってんの――っ!?(超赤面) けど、どんなに悩もうとも、わたしはあきらめない。 、やる時はやる女なのです! そうして、乾の誕生日に向けての、わたしの戦いは始まった。 持てる時間のすべてを費やし、真に求められるプレゼント探しに尽力する。 だって、6月3日まで、もう日がないんだもの。 「あ、」 「ごめん乾、また後で」 愛しの乾に呼び止められても、涙を呑んで通り過ぎる。 だって、休み時間は貴重なのよ。 その間に少しでも多く、彼氏のいる友達に話を聞いておきたいから。 みんなは彼に、どんなプレゼントを贈ってるんだろう。 「おい、」 「急いでるの。じゃあね」 愛しの乾に呼び止められても、涙を呑んで、やっぱりスルー。 放課後は、少しでも多くの店を渡り歩いて、自分の目でじかに品物を吟味したいから。 「あのな、」 「ごめんね、今、手が離せないの」 家に帰ってからは、テレビや雑誌とにらめっこして、メディアを相手に情報収集。 だから、愛しの乾から電話があっても、涙を呑んで早々に切る。 そんなふうに、いろんな話をたくさん聞いて、いろんな物をいっぱい見た。 けれど、どれも決め手に欠けて、どうにもプレゼントは決まらない。 そして、時間はいよいよなくなってしまい、ついに今日は、乾の誕生日当日。 仕方ない……。 こうなったら、今日にすべてを賭けようではないか。 乾は部活があるから、帰りが遅い。 なら、部活が終わるまでの間に、買い物に行って帰ってこれば、それで何とか間に合うはず。 よし! わたしは気合いに満ち満ちて1日を過ごし、帰りのHRが終わるや否や、カバンを掴んで教室を飛び出そうとした。 ところが、やる気に燃えたぎるわたしの前に、立ちはだかるのは2つの影。 その影の名は、菊丸英二と不二周助。もう、何よ、こんな時に! 「ちょっと、何!? 急いでるんだから、邪魔しないでよ!」 「んー、そう言われても困るんだよなー」 「さんの意見も尊重してあげたいけど、もう指令を受けちゃったんでね」 呑気に言って、わたしの前に壁を築く2人組。 指令? 何言ってんのよ、2人とも。 「ああもうっ、とにかく邪魔なのよ! こっちは、時間との勝負なんだからね!」 「奇遇だね。こっちも、ある意味、時間との勝負なんだ」 「6組に行くまで、しっかり足止めしとけって言うんだからにゃー」 足止め? わたしを?? 何のために??? っていうか、さすがにそろそろ気づいてきた。 この人たちに、わざわざそんなことを頼むような人って……。 その人物の姿が、脳裏に浮かび始めた時、横合いからわたしの腕を掴む大きな手。 「ダラダラと話す担任のせいで、無駄にHRが長引くうちのクラスより、6組のHRが早く終わる確率は92%。やはり、足止めを頼んでおいて正解だったな」 ……やっぱり、乾。 「感謝するぞ。不二、英二」 言うと、乾は歩き出した。 わたしの手を取ったまま教室を出て、問答無用で突き進む。 そして場所は、いつしか人気のないところへ。 やがて乾は、おもむろに足を止めて、わたしと向き合った。 「これでようやく、まともに話ができるな」 「い、乾?」 あの……もしかして、機嫌悪い? 「最近、俺のこと避けてるようだけど」 「いや、避けてるっていうか……何ていうか」 まあ、避けてなくはない……かな。 だって、せっかくのプレゼント、何をあげるか事前にバレちゃったら、意味ないし。 それでここ最近、リサーチとかで休み時間もずっと席を外して、乾とはほとんど会ってなかった。 そういや、電話やメールにも、まともに返事を返してないや。 って、ちょっと待って。 もしかして、そのこと、変に誤解してるんじゃ……? だって、わたしのこれまでの行動、思い返すと、誤解要素が盛りだくさんよね? 「ま、待ってよ、乾。わたしは別に、乾と顔を合わせたくないとか、そういうことを思ってるんじゃなくてね」 あー、うーっ、何て説明したらいいの? 頭の中も出てくる言葉も、すべてがしどろもどろで、いろいろアヤしくなってたら、何と乾は、サラリと言ってくれました。 「わかってる。俺の誕生日のことだろう?」 「へ?」 「リサーチするなら、もっといろいろ、気を配った方がいい」 「えっと……?」 「内緒話のつもりだろうが、周りには結構聞こえている。俺の耳にも入ってくるくらいにはね」 ……ってことは、なんですか。乾に内緒で誕生日プレゼント選んでたことは、とっくの昔に、当の乾の耳に入ってたってわけですか。 わ、わたしの今までの努力って、一体……。 わたしの肩から、どっと力が抜け落ちる。 それに合わせて、乾の空気が少し柔らかくなった。 そして、困ったようにため息をつくと、 「そんなに難しく考えなくてよかったのに」 「難しく考えたかったの」 「でも俺は嬉しくない」 「………………」 「ヘコまないの」 言って乾は、今までずっと掴んだままだったわたしの腕を引き寄せて、そのまま優しく抱き締めてくれた。 ヘコむなって言うけど、やっぱりこれはヘコみます。 乾のためにって思ってやってたけど、それって結局、ただのありがた迷惑ってヤツだったんだから。 ……なんでうまくいかないんだろ。 ずっと好きだった乾とつき合えるようになって、ちょっと浮かれすぎてたのかな。 乾に直接、「嬉しくない」って言われちゃうほど、わたしは彼を幻滅させた? ヤバイ……泣きそうだ。 「あのさ、」 大好きな声が、頭上から降る。 でも、わたしは顔を上げられない。 「が俺のために、いろいろ考えてくれたことは嬉しかったけど、そのことで、俺と一緒にいる時間が減ってることには気づいてた?」 「……え?」 「クラスも違うし、学校内でも限られた時間しか会えないんだ。なのにここ最近、声をかけても相手にしないし、電話にだってロクに出ない。聞けばその原因は、俺の誕生日だっていうじゃないか」 もしかして、乾の機嫌が悪かったのって……わたしがずっと無視してたから? いや、決して無視してたわけじゃないんだけど。 ただ、結果的に、そういうふうになっちゃっただけで。 「どうせさっきも、プレゼント選びのために、すぐに学校を出ようとしたんだろう?」 「う、うん」 「あーあ。せっかくの誕生日だってのに、彼女が一緒にいてくれない俺って、何てかわいそうなんだろう」 「で、でも、乾の帰りに合わせて、ちゃんと戻ってくるつもりだったよ」 「つまり、帰り道の短い間しか、一緒にいられないってわけだ。せっかく誕生日だってのに――」 「もうっ、ごめんってば!」 いつの間にやら涙の引っ込んだわたしは、そのまま乾に、ぎゅっと抱きついた。 なんだかもう、嬉しいやら恥ずかしいやら。 だってさ、乾ってばわたしのこと、ほんとに好きっぽいんだもん。 そりゃ最初に、彼から「好きだ」って言われてつき合い始めたんだけどさ、でも今ほど、彼からの気持ちを実感したことってない。 冗談っぽく言ってるけど、乾は本当の本当に、わたしと一緒にいたかったんだ。 それがわかった今、なんだか無性に申し訳なくなった。 「寂しい思いさせてごめんね」 「まったくだ」 「その上、プレゼントも決まってなくてごめん」 「それはいいよ」 「いや、よくない」 「いいんだって」 「よくないんだってば」 あれ? せっかくラブラブになりかけた空気が、ちょっとアヤしい雲行きに……。 後半なんて、もはや意地の張り合い。 いや、むしろ、わたしの意地の方が強かった。 だって、あんなに頑張った結果が何も残らないなんて、悔しすぎるもん。 でも、とことんプレゼントにこだわるわたしに、やがて乾はこう言った。 「あのさ、プレゼントって、物に限定されるわけじゃないよね」 いや、プレゼントって、普通は物でしょ? そりゃ、一番大事なのは気持ちだろうけど、それだって何かに込めて贈られるよね。 乾の言いたいことがわからず、首を傾げてると、 「欲しいものは特にないけど、してほしいことならあるんだ。だから今回は、それをプレゼントってことにしてくれない?」 ああ、そういうこと。 んー……ここで乾を振り切って、プレゼントを買いに行ったとしても、素敵なものが見つけられるとはちょっと考えにくい。(それが当初の考えだったことは、この際置いといて) それに仮にあったとしても、こうなった以上、乾が素直に受け取ってくれるとも思えないし。 ちょっと不本意だけど、今回はそうするしかないかな。 他ならぬ乾本人が、それでいいって言ってるんだし。 「わかった。で、してほしいことって何? わたしにできること?」 「ああ。余裕でできる」 そして、素敵な笑顔で乾は言った。 「俺のこと、そろそろ名字じゃなくて、名前で呼んでほしいんだよね」 ――なんですと!? 「俺はのこと名前で呼んでるのに、不公平じゃない?」 「そ、それって、不公平とかそういう問題?」 「俺がそう思うんだから、そういう問題」 「いや、でもね」 「誕生日プレゼント」 うっ。 そ、そう言われると、わたしは何も言えなくなる。 いやいやいやいやいや。でもでもでもでもでも。 やっぱり何というか、名前で呼ぶのって、こう……ねえ? だって、乾のことはずーっと「乾」だったから、今さら呼び方をさだは………………あう。無理。 そんなふうに、口の中で何度もモグモグやってたら、乾はわざとらしく重いため息をつき、 「あーあ。彼女に、プレゼント代わりのささやかな願いさえ叶えてもらえない俺って、何てかわいそうなんだろう」 「ああもうっ! わかった、わかりました!」 「じゃあ、今呼んで」 「わ、わかったわよ」 ちょっと名前を呼ぶだけのこと、やろうと思えば簡単にできるわよ。そう、簡単なの。 、やる時はやる女なのよ! わたしは、気合いに満ちた面構えで乾を見た。 その乾は、明らかに面白がった様子で、わたしを見ている。 いい? いくわよ。 「さ………………さだはる」 ……やっぱり、すごく照れるんですけど。 表情とは裏腹な、尻窄みなわたしの声に、けれど乾は小さく笑い、 「ま、いいでしょう。じゃあ、これからはそれでよろしく」 はあ……慣れるまで大変そう。 でも、まあいっか。恥ずかしいけど名前で呼び合うと、よりいっそう「恋人」って感じがするもんね。 「ねえ、ほんとにプレゼント、それだけでいいの?」 「いいよ。でも、気になるようなら、もう1つもらっていい?」 「いいけど、今度はな――」 今度はどんな要求をされるのか、それを問いただそうとしたわたしの声は、途中で消えた。 いや、消されたんだ。唇に触れる、柔らかな感触に。 わたしの唇に重なるのは、乾の―― 「ちょっ……乾!?」 「貞治」 抗議の声をあげようとして、逆に簡潔に抗議される。 そして再び、彼の唇がわたしの唇に触れた。 初めての彼の誕生日。 初めてのプレゼント。 そして、初めてのキス―― いろんな「初めて」が凝縮された、今日1日。 そのすべてを、わたしは絶対忘れない。 彼――貞治がこの世に生まれてきてくれた、6月3日の出来事を。 −END−
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