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09.普段 部活動中に一番飛び交う単語といえば、やはりそれぞれの部にまつわるものが大半を占める。 例えばテニス部なら、ラケット・ボール・サーブ・ボレー・ネットなど、まあその時の練習過程によって変わってくるけど、大体そんな感じのもの。 けど、うちに限っていえば、部活内容・練習過程とは全く関係ない、頻繁に飛び交う単語があるのよね。 それは―― 「いやー、さすがジミーズ。相変わらず地味だけど、そつのない見事なプレイだね。立派立派ー」 千石の、気の抜けた声はいつものこと。 そして彼が、あの2人にちょっかいを出すのもいつものこと。 でも、いつものことだからって、言われた当人たちが、常に受け流せるとは限らないんだ。 「ああもう! 地味地味うるさいぞ、千石!」 「つーか、いつまで休憩してんだよ。次の試合、おまえだろ」 「あ、迂闊に触んなよ。地味が移るだろー」 「移るか!」 なんでうちのテニス部は、こんなにも「地味」という単語が連発されるんだろう? いや、連発してるのは、主に千石なんだけど。 けど、そろそろ止めないと、温和な南と東方も、千石のあまりのうっとおしさにキレそうだ。 「ちょっと千石。ジミーズをいじめるのも、それくらいにしときなさい」 場を取り成そうとしたわたしに、けれど南は渋い顔。 「、おまえもさりげなく、人をジミーズ呼ばわりするな」 あ、ごめん。 あまりにもサラッと口から出てきたんで、自分でも気づかなかった。 でも、謝罪しようと気が逸れたところへ、面白がる千石が、さらに畳みかけてくる。 「うん、そうだね。あんまり地味地味言うと、こっちまで地味になりそうだし」 「うるさい、千石! 地味って言ったヤツの方が地味なんだよ!」 うわ、なんだか南がヤバイ。 今日は暑いし、そのせいで、余計イライラしてるんだろうな。 もっとも、暑さのせいばかりじゃなく、千石のしつこさが一番の原因なんだけど。 なんにせよ、部長の南が平静でいられないのは、部活動の運営に差し障る。 ここはひとつ、マネージャーのわたしが千石を黙らせねば! 「そうよ。あまり地味を馬鹿にするもんじゃないわ、千石」 「いやいや、その言い方が、すでに馬鹿にしてるっぽく聞こえるよ、ちゃん」 茶化す千石。 その声は聞こえないことにして、先を続ける。 「南と東方みたいなタイプは、地道に堅実に実績を重ねて、大成するんだから!」 真に彼らを知る者なら、これに異論の余地はない。 そりゃ、ジミーズと揶揄されるだけあって、確かに南と東方は目立たないよ。 でもそんな2人のダブルスが、山吹の強力な武器であることは、誰もが認める事実なんだ。 まあ、誰もが認める事実だから、千石だってちゃんと知ってるんだけど、知っててからかうから、タチが悪いのよね。 だって南も東方も、地味なのを認めつつ、実は気にしてるんだもん。 「……ってことは、ちゃんの見立てでは、ジミーズの未来は有望なわけ?」 でもここで、千石の声が、ちょっぴり神妙なものになる。 お、ジミーズの本来の力を思い出したか? 身近にいるとつい忘れがちになるけど、本当はすごい選手なんだって思い出したか? せっかくだから、そこんとこを少し強調しておこう。 「当然よ。有名になった時に、友達面して近寄ったって遅いんだからね」 「お、おい、……?」 「なんだか話が、変に大きくなってないか?」 南と東方が不安げに呟く傍らで、さらにわたしは続ける。 「それに、地味な2人が目立てば目立つほど、マスコミは今まで怠ってた、選手の情報収集に勤しむことになるわけよ。そうすれば、学生時代を共に過ごしたわたしたちのとこには、2人の同級生ってだけで、取材が殺到しちゃうんだから」 「それもこれも、今2人が地味なおかげだね」 「もちろんよ。……って、ん?」 ついうなずいちゃったけど、今のはちょっと違う気が……。 けど、それを訂正する前に、ひと足早く、千石の勢いが息を吹き返してしまった。 「というわけで、ジミーズの諸君。輝ける未来のためにも、今のうちから思う存分、地味を発揮するように! あ、でも、地味は移さないでね☆」 「そういうことじゃなくて! ちょっと、千石!」 まずい、さっきよりひどくなったかも。 そして、南が本格的に怒り出す兆しを見抜くと、千石は軽快な足取りで逃げて行った。 後に残されたのは、南と東方と、なんだかんだで2人を地味呼ばわりし続けた、このわたし。 あの……何気に気まずいんですけど。 「えっと……ごめんね」 失礼な発言をした上、同じく失礼な千石を調子付かせた謝罪をする。 けれど2人は、困ったような疲れたような笑いを見せつつ、 「が悪いわけじゃないさ」 「まあ、努力してくれたことには感謝するよ」 ああ……南も東方も、本当にいい人だ。 −END−
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