08.髪の毛結ぶ



「そうしてると、結構かわいいな、って」


 のびっぱなしな前髪が邪魔になってきたから、とりあえず頻繁に動く部活中だけでも、ゴムで結んでみることにした。

 ただ、それだけ。
 それだけで、神尾にいきなり、こんなことを言われたのです。


「……突然、何?」
「何って、思ったことを言っただけじゃん。たまには、そういうのもいいぜ」


 一体どうした、神尾アキラ!

 わたしとあんたはテニス部の仲間で、つまりはただの友達どうしで――


 ……なーんて、一瞬ドッキリしたものの、今のはどこか感心しただけの、全く他意のない一言だったみたい。
 何しろ、言うだけ言ったら、普通にどこかへ行っちゃったしね。

 っていうか、神尾がそう思ったのは、ただ杏と同じように、おでこ出してたからなんじゃ……。
 だとしたら、なんて単純な理由だろう!


 そうは言っても、神尾から、「かわいい」と言われた事実に変わりはない。

 まさか、そんなことを言われるとは思わなかったから、わたしはつい、真っ赤になってしまった。
 でもこれは、罪のない条件反射なのよ。

 けど、たまたま近くで、一連の出来事を見ていた深司は、眉間に盛大な皺を寄せて、


「もしかして、アキラのこと好きなの? 真っ赤になっちゃって」
「なっ、違……っ! あいつがいきなり、変なこと言うからよ。見てたんならわかるでしょ!」


 だって、そんな感じのこと、今まで一度も口にしたことがないのに。

 だからいきなりそう言われると、こちらとしても対処に困るんだ。
 たとえそこに、深い意味がなかったとしても。

 でも深司に、そんなわたしの言い分は通らなかったらしい。


「そんな態度見せられると、アキラのこと好きなように見えるんだよね。まぎらわしいから、やめてくんないかな」


 ……何よ、それ。

 っていうか、もしかして機嫌悪い?
 だとしても、それでわたしに当たるのは、筋違いってものだ。


「悪かったわね。でも、そんなふうに見えたって、別に深司に関係ないでしょ」


 ボヤきまくる彼とは、正直、あまり関わりたくない。
 そう思って、身を翻しかけたんだけど、それまでブツブツ言ってた深司が、なぜかふいに黙り込んだ。


「関係あるから言ってんじゃん」
「は?」


 その一言に、どことなく、変化を感じて振り返る。
 すると深司は、すごく面白くなさそうな、そしてえらく悔しそうな顔をして、


「俺はずっと、髪結んでなくても、のことかわいいと思ってたから」
「……は?」
「前から、そのままのが、わりとかわいいと思ってたんだよ。……そういうことなんで」
「え!? ちょっ……深司!」


 わりとって何よとか、そういうことってどういうこととか、つっこみたい部分は多々あるけど、今一番気になるのは、そんなことじゃない。

 そう、一番気になるのは、彼が立ち去り際に言い残した、「だから他のヤツの言葉に、簡単に反応するなよな」という一言が、意味するものだった。

−END−


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2008.05.30



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