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01.始まり 春。 それは別れと出会いを織り成す季節。 先輩たちを見送ったわたしたちが、今度は最上級生になる、そんな季節。 そして新1年生の入学式を迎え、生徒が少なくなって静けさに満ちていた学校に、再び活気が戻ってくる季節でもある。 でも今日からは、学校だけでなく、部活にも活気が戻るんだ。 なぜならこれより2週間、1年生の部活の見学期間に入るから。 この2週間であらゆる部を見学して、1年生たちはそれぞれの所属部を決めるのだ。 そして部活へ行く途中で、部長の手塚、副部長の大石と一緒になったテニス部マネージャーのわたし、は、道中を利用して、さっそく見学期間の最終打ち合わせを始めた。 「じゃあ、コートのフェンス周りで見学ってことでいい?」 「ああ。本当はフェンス越しより中に入って見た方がいいけど、そうも言ってられないからな」 なんといっても、青学テニス部は強豪。それだけ毎年の見学者・入部希望者は多い。 「人数が少なければ、別にかまわない。その辺りは、状況を見て判断しよう」 「うん、了解」 「そういうわけで、あまり入口付近に荷物を固めておかないようにな」 「わ、わかってるわよ!」 皮肉げな笑みを浮かべて、そんなことを言う手塚。 入口のそばにあったボールのカゴを誤ってひっくり返し、勢いよくボールをばらまいて練習を中断させたのは昨日のことだ。 でも、わざとやったわけじゃないんだから、そんなに話をひきずらなくてもいいじゃない。ねえ? 「とにかく! 見学しやすい環境を作るってことでいいわね」 とはいえ、わたし的に分が悪い話題なので、強制的に打ち切ることに。 手塚と大石が苦笑してるけど、それは気にしない方向で部室へと進む。 でも、いざ部室に到着してみれば、なぜかそこには、いつもと少し違った光景が。 「あれ?」 それに違和感を感じたのは、わたしだけじゃなかった。 「今日はずいぶん早いんだな、みんな」 わたし同様、大石も驚きの呟きをもらした。 なぜなら、目の前に広がるテニスコートには、2年生全員が早くもそろっていたからだ。いつもなら、まだ半分近くは着替えてる頃なのに。 「今日の2年の授業は、いつもより早く終わったのか?」 「いや、そんな話は聞かなかったけど……でも、どうなんだろう?」 手塚と大石が不思議そうに、勢揃いする2年生たちの謎を考える。 でもわたしは、何となくわかってしまった。 そういえば去年の今ぐらいの時期、わたしも彼らと同じようにしていたなーと、ふと思ったから。 きっとみんな、1年生が見学に来るから、少なからずそわそわしているんだ。 新たに1年生が入るということは、今まで一番下だった2年生たちに後輩ができるということ。 つまり彼らが、先輩になるということ。 小学生の頃は先輩後輩の概念ってなかったから、そんなことは思わなかったけど、やっぱ「先輩」って呼ばれるのには憧れるのよね。 先輩ってだけで、なんだかすごそうな感じもしてさ。実際は何がすごいってわけでもないんだけど。 でも、初めて「先輩」って呼ばれた時の嬉しさとくすぐったさは、今でもしっかり覚えてる。 あの時感じたあの気持ちを、今まさに、後輩たちも体験しようとしてるんだ。 そのことを思い出したら、なんだか無性に頑張りたくなった。 やっぱ後輩の前では、先輩としてかっこよくありたいもんね。 「ねえ。頑張ろうね、手塚、大石」 「? ああ、頑張ろう」 唐突にそう言ったわたしに、大石は首を傾げつつも同意する。 そして手塚は、 「もちろんだ。もボールをぶちまけることなく頑張れよ」 「もうっ! しつこいよ、手塚!」 春。 2年生は先輩になり、3年生のわたしたちはさらなる先輩になる季節。 そして、手塚は案外意地が悪いことも知った、そんな季節。 −END− |