わたしは宍戸が好き。
 そして宍戸もわたしが好き。

 だから彼の誕生日をきっかけに、2人の関係を、もっと深く強いものにさせたかった。
 残念ながらその予定は、月に一度の女の子の事情で、無理になってしまったけど……。

 それから、機会がないまま時間は過ぎて――そうしたら、なんだか少しずつ雲行きがアヤしくなり始めた。
 何がアヤしいかっていうと、主にわたしの気持ちの面が。




居残りLOVER(S) そして2人は…… 前編




 別に、彼のことが嫌いになったわけじゃない。
 宍戸と1つになりたい、その気持ちだって嘘じゃない。
 でも、なぜだろう。
 あんなに望んでいたその行為が、今になって、すごく怖くなってきたの。

 おまけに今では、わたしに押され気味だった宍戸の方が、より密接なやりとりを求め始めてきて。
 普通のキスなら、前から何度もしていたけど、最近は舌を入れたがるから、どう応えたらいいかわからない。
 それに、やたら身体に触りたがるようになったし、ずっと名字呼びだったのが、そういう時だけ「」って名前で呼ぶようになったし。


 それらの先に繋がる行為を意識させられるたび、わたしの中で不安が大きくなることを、きっと彼は知らないだろう。
 だって、ほんの数週間前のわたしは、あんなに乗り気だったんだから。

 わたしたちがやろうとしていることの内容は、自分でもちゃんとわかっている。
 そしてわたしは、その上で彼に接していたはずなのに。
 なんであの時の心境で、臨めなくなったんだろう?


 好きなのにそれが怖くて、好きなのにそばにいたくない。
 でもそんなこと、宍戸には言えない。
 どうしようと思いながらも、わたしを求める彼を、受け入れることも拒絶することもできずに、悶々と悩む日々。
 なのに、どれだけ悩んでも答えは出ない。


 そんな中、ついに恐れていたことが起きた。
 誰かがいるから大丈夫と立ち寄った宍戸の家で、思いがけず2人きりになっちゃったんだ。


「ち、ちょっと待って!」
「待てねえ」
「でもあの、そんないきなり……!」


 ほんのちょっと目が合った次の瞬間、驚くほどのスピードで一気に迫られた。
 急に距離を詰められたわたしは、戸惑いのせいで、状況を理解するだけで手一杯。

 そうこうするうちに抱きしめられてしまったので、どうしたらこの腕の中から逃げ出せるか、必死で考える。
 でも、わたしの背中を撫で回す手のせいで、絶望的なことしか浮かばないんだ。

 だって、この手は確実に、ブラのホックの感触を伝えている。
 今回はいつぞやのように、フロントホックじゃない。
 そして、上下色違いの下着でもない。それどころか、超お気に入りのかわいいヤツ。
 そんなつもりはなかったのに、今日のわたしは完全装備。

 あの時みたいに、抵抗する理由は何もない。
 理由がない――理由がないことが、すごく怖い。


 どうしようどうしよう。
 怖いことは、彼をはねのける理由にはならない?
 それで退いてはもらえない?



「んっ……」


 わたしの内心など知るよしもなく、そのまま寄せられる唇。
 触れて、離れて、見つめ合って、もう一度。それを何度か繰り返す。

 こうした、優しいキスは好き。
 ずっとこのまま、こうしてたいけど……でもやっぱり、向こうはこれだけで満足してくれなかった。


 首筋に下りた唇が、宍戸の熱い吐息を伝えてくる。
 熱い手のひらが、直にわたしに触れようと、ブラウスのボタンを外していく。

 抵抗をためらっているうちに、普段隠れている肌が彼の目の前で露になった時は、本格的に逃げたくなった。
 恥ずかしさに耐えかねて隠そうとしても、わたしよりずっと強い力が、それを許さない。


「隠すなよ。全部見たい」
「でも、」


 往生際の悪いわたしに、宍戸も何かを感じたのか、それ以上何も言わせないとばかりに、再度唇を塞がれた。
 そして、押し入る気配を見せた舌に、わたしの身体が強張った時――


 〜〜〜〜〜♪♪♪


「――なんだよ、もう!」


 突如、宍戸の携帯から鳴り響いた、軽快な着信音。
 それはわたしからすれば、ある意味、天の助けだった。

 とはいえ、この状況を優先したかった宍戸は、当初無視を決め込んだ。
 でも、あまりにしつこく鳴り続けるので、ついには根負けしてしまったんだ。
 そして相手を確認すると、舌打ちしながら、乱雑に応じる。


「なんだよ、跡部! 俺は今、忙しいんだよ!」


 いや、忙しいっていうか、それってただの八つ当たり!
 でも、電話の向こうの跡部くんも、「俺だって忙しいんだ! 宍戸のくせに手間取らせるな!」と、わたしに聞こえるくらいの音量で叫んでいる。

 そしてしばらく言い合った後、ようやく本題へ。
 何やら込み入った話らしく、宍戸はわたしに一言断ると、中座して部屋の外に出て行った。


 よかった……。今のうちに、少し落ち着こう。

 できることなら覚悟を決めてしまいたいけど、はたしてこの短時間でできるだろうか。
 っていうか、別にこういうのって無理にすることじゃないんだし、それなら今のままの関係でいても、おかしいことはないはずだよね?
 だったら、今日はこのまま解散ってことに……。


 解散ってことに………………。





 ――できないだろうな。





 逃げたくてたまらない思考、でもそれを、どこか冷静な自分がスッパリ断ち切った。


 わたしも宍戸も、何もかもを取り払った触れ合いを求めてしまった。
 だからこそ、何もしないでいる状態は、わたしたちの中でもう、自然な関係とは言えなくなっている。
 実際の行動はまだ全然伴ってないけど、だからこそ、とどまるわけにはいかない心境が際立って見えるんだ。


 仮に今日を逃れたとしても、このまま拒み続けられるのか。
 そして、拒み続けたらどうなるのか。
 それを考えて浮かんだのは……宍戸のいない、悲しい未来。

 そんなのは絶対嫌だ!
 わたしは宍戸と別れたくない。
 この先の行為を続けることは怖くてたまらないけど、それでも、宍戸が離れてしまう恐怖に比べたら……。


 わたしは大きく、ゆっくりと深呼吸をした。

 大丈夫。頑張れる。
 だって宍戸は、わたしにひどいことをするわけじゃない。
 そりゃ、初めての時は痛いっていうけど………………でも大丈夫! きっと大丈夫!

 だから宍戸、早く戻ってきて。わたしの決意が緩まないうちに。
 ほんとお願いだから、大丈夫なうちに、ひと思いにやっちゃって!



 でも。

 なのに。

 なぜか。



 やっとの思いでわたしが覚悟を決めたっていうのに、肝心の宍戸が全然戻らない。
 まだドアの向こうで、跡部くんと何か話している。

 雑談って感じじゃないから、きっと大事な話だろうな。
 なら、ここは黙って待つしかない。


 だから、「好きにしていいよ」という主張代わりに、ベッドで横になったまま待ってたんだけど、ブラウス全開ブラ丸出しの状態で放置されてると思ったら、恥ずかしいのを通り越して、ちょっと物悲しくなってきた。
 何より、秋まっさかりのこの時期は、とっても肌寒いのです。

 そうした事情から、わたしは彼が外したボタンを、1つ1つゆっくりと閉じていった。

 けど、肌が覆われていくたびに、わたしの決意も曇っていくようで……。
 それはまるで、輝く月が雲に覆われ、辺り一面が真っ暗闇になるかのよう。



 結局、宍戸が戻ったのは、わたしがしっかりブラウスを着込んだ後のことだった。

−NEXT−

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 タイミングのずれが、テンションに影響を及ぼすことも。

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2009.09.27

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