数日後に控えるは、大好きな彼氏、宍戸亮の誕生日。

 そのことを考えるだけで、わたしの心拍数は勝手に上昇していく。
 だって、約束したんだもの。宍戸の家で、その日は一緒に過ごそうって。

 でもって、その……家には誰もいないからって。

 そのせいか、当日のことを思うだけで、自然に入浴時間が長くなっていく。
 まだその日まで時間はあるけど、つい隅々まで、身体を磨きたくなっちゃうのよね。
 だってほら、わたしの全部を見られる上……触られちゃうわけだし。


 ――って、キャーッ! あらためて言うと、やっぱり恥ずかしーっ!!


 そんなふうに、風呂上がりにカレンダーを眺めては顔を赤らめるということを、何度か繰り返したある日のこと。


「……あれっ?」


 いつものように真っ赤になってたわたしは、ふいにある衝撃的な事実に気づいてしまい、一気に真っ青になったのでした。




居残りLOVER(S) その後




 愛しい人と愛しいコトをしようと決めた日。それが9月29日。
 たとえほんのちょっとでも、今以上にキレイになろうと奮闘し、指折り数えて待っていた日。
 それが9月29日。

 なのに、その9月29日を目前にした今になって、わたしは自分が、とても重大な問題を抱えていたことに気がついた。


 というのもですね、予定ではとっくに来ているはずの生理が、どういうわけだか予定日を1週間近く過ぎた今も、さっぱり来ないからなのです。
 ということはですよ、つまり今この瞬間から、いつそれが始まっても、おかしくないということになるのです。


 でも、そんなのは絶対ダメ!
 今来られたら、むちゃくちゃ困る!

 だって、もしそうなったら、確実に宍戸の誕生日とぶつかるんだもの。
 もしぶつかったら、前々から約束してた、肝心要の事に及べなくなっちゃうわ。


 でも……もう1週間もたつのか。
 今までも2〜3日ずれ込むことはあったけど、こんなにも遅れるなんて初めてのことだ。
 さすがにちょっと不安になったので、母に相談してみたけど、「あんたくらいの年頃だと、まだホルモンバランスが安定してないのかもね」と、言われただけだった。

 つまりは、まだしばらく様子を見ろってこと。
 でも、この場合のしばらくって、具体的にどれくらいなの?


 様子を見ろっていうくらいだから、本当はじっとしていた方がいいんだと思う。
 でもお母さん、だからっては、じっとしているわけにはいかないのです。
 これを機会に、宍戸と一緒に、大人の階段を駆け上がっちゃいたいのです。


 とはいえ、不安定なこの現状を打開する策は、やっぱりないわけで。


 ……無理だって知ったら、宍戸はなんて思うだろう?
 まあ、身体目当てでつき合ってるわけじゃないし――って、そもそも目当てにされるほどのナイスバディでもないし――できないからって、嫌われることにはならないよね、うん。


 でも、盛り上がってるところに水を差されるのがいかなるものか、この前の出来事で知っちゃったわけだし。
 だから、ダメになる可能性があることだけでも、一応彼に伝えておこうと思った。



◇   ◆   ◇   ◆   ◇



 そして翌日の放課後、あらたまって話をするために、わたしは宍戸を自分のクラスに呼び出した。
 人前でできる話でもないので、人気がなくなるのをひたすら待つ。
 彼と2人きりになれるまで、ただひたすら。


 張りつめた空気の中、適当なイスを引っ張り出して、腰を下ろす宍戸。
 どこか落ち着かない様子なのは、多分わたしの醸し出す、この変な緊張感のせいだろうな。

 ひとまずわたしも座ろうと思ったけど、何せ告白の内容が内容なので、一向に落ち着かない。
 じっとしていることもできず、ウロウロと中途半端に動き回るだけ。
 わたしがそんなだから話しかけづらいのか、宍戸もずっと口を閉ざしたままだった。


 でも、いつまでもこのままじゃいられない。
 意を決したわたしは、宍戸の前で立ち止まると、真正面から彼に向き合った。


「あのさ……実は、大事な話があるの」
「な、なんだよ、あらたまって」


 いつもと違う様子のわたしに、宍戸も神妙な面持ちで視線を向ける。
 わたしはそんな彼を見ながら、大きく息を吸った。
 そして次に、息を吐く力を利用して、続く言葉を一気に押し出した。


「生理が来ないの」
「ええっ!?」


 突然言われたその言葉に、激マジでビビる宍戸。

 ……って、おい!


「なんでそんなにビビるのよ! そもそもわたしとあんたは、まだ何にもしてないでしょうが!」
「あっ、そ、そうだな」


 言われて納得した宍戸は、「つーか、いきなりそんなこと言われりゃ、普通にビビるっての」とブツブツ言いながらも、明らかにホッとしていた。

 でも今度はその顔が、見る見る訝しげに歪んでいく。
 それを見れば、何を考えてるかなんて、よーくわかるわ。
 そして、何やらとんでもない誤解をし始めた宍戸に、今度はビシッとチョップをかました。


「いてっ」
「言っとくけど、他の人と何かあったわけでもないからね。どういうわけか、遅れまくってるだけだから」
「わ、わかってるよ!」


 いや、あの顔は明らかにアヤしんでた。宍戸一筋なわたしの気持ちを、ちょっと疑ってたね。
 まあ、それ以上つっこむと話が進まないから、この件にはこれ以上触れないことにするけどさ。

 でも、なぜわたしがこんな話をするのか、真意の掴めないらしい宍戸は、怪訝そうに訊ねてきた。


「遅れると何かまずいのか?」
「うーん、さすがに1〜2ヶ月来なければ、身体のどこかに異変が起きてる可能性もあるけど、今の段階では何ともねえ……。けど1つだけはっきりしてるのは、もし今日明日にいきなりなっちゃったら、29日は、その………………できないからね」
「あ!」


 ようやく合点がいったらしく、途端に宍戸は真っ赤になった。
 もう、29日にやろうって言ったのは自分のくせに、なんでこんなに照れんのよ。
 そんな反応されたら、こっちまで恥ずかしくなるじゃない!


「あー、その、そういう時って……やっぱ無理なのか?」
「うーん……可能か不可能かで言えば、可能だろうけど……。でも衛生的には、あまり好ましくないみたいだし……」


 それに、初めてがそんな特殊条件下というのは、やっぱり……ねえ?
 そんなふうに、わたしが言い淀んでいると、ポリポリ頭をかきながら、気恥ずかしそうに宍戸は言った。


「あのさ、確かに俺の誕生日に、とそうなれたら最高だけど……でも別に、何がなんでもってわけじゃねえぜ」
「う、うん……」


 そして宍戸は、手をのばして、わたしの腰を引き寄せる。
 そのまま抱きしめられるけど、座ってるから、彼の頭がわたしのお腹の上辺りにあって、それがちょっと落ち着かない。
 だってぷよっとしてるわたしの腹肉に、宍戸が顔を埋めてるみたいなんだもん。
 抱きしめるのはいいけど、せめて顔だけ離してくれないかなあ。

 けど、相変わらず複雑な乙女心を察せない宍戸は、逆にこちらの抵抗の気配を抑えようと、ますます腕に力を込める。
 これ以上やっても、宍戸とわたしのお腹が、よりくっつくだけになりそうだな。
 文句は後で言うことにして、仕方なく、今はあきらめることにした。

 でも、そうしてほんのちょっと、力を抜いた時。


「おまえと一緒に過ごせれば、それで十分なんだよ」


 密着しながら話すせいで、わたしの身体の中心から、宍戸の言葉が響き渡る。
 そのまま全身に浸透していくそれは、29日の行方を気にしていたわたしにとって、最高の殺し文句だった。


「誕生日は、といたい」


 し、宍戸のくせに(失礼)、なんて女泣かせなこと言うんだろう。
 わたしの腹に顔をくっつけながらってのが、ちょっぴりひっかかるけど、でも顔を見ながらこんなこと言われたら、嬉しさと恥ずかしさのあまり、きっと心臓が耐えられないわ。

 けど宍戸は、しばらく間を置いた後、さらにこんなことまで言いました。


「……でも、できれば、としたい」
「………………」


 えーと、感動が台無しだと思うのは、わたしの心が狭いからですか?
 それともこの場合は、むしろ正直者だと、褒めてあげるべきなのですか?

 けれど見下ろせば、そこには頭皮まで真っ赤にさせた、顔を隠してる意味のない宍戸がいて。

 ……くそっ、かわいいなあ。
 そのまま宍戸の頭をギュッと抱きしめたら、腰に回された腕の力が、さらに強まった。


 この人がわたしを求めてくれるように、わたしだってこの人を求めている。
 その気持ちを素肌で直に感じ取ることができたなら、きっとわたしたちは、今まで以上にお互いのことを好きになるんだろう。

 でも、そうなるために絶対必要な条件は、2人が一緒にいるということ。
 その条件さえ満たしているなら、きっとわたしたちは、いつでも深く触れ合うことができるんだ。
 だから今、肝心の行為に進めなくたって、それはきっと、大したことじゃないんだね。


 ……って、それはわかってるんだけどさ。
 でも、もし本当に生理が来ちゃったとして……その場合、次の機会は一体いつになるんだろうね?

 そんなことを考えて、ちょっと苦笑い。
 すると宍戸は、高い位置にあるわたしの頭を少し下げさせ、まだ赤いままの顔を、隠すことなく近づけてきた。

 そして、そっと目を閉じた後に生まれるのは、とても優しい感触と、今まで以上に彼を愛しく想う気持ち。
 きっと今のわたしの顔は、宍戸に負けないくらい、真っ赤だと思った。


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「大ニュース大ニュース! ここに来る途中で、宍戸とが話してんの聞いちゃったんだけどさ。マジえらいことになってんぜ、あの2人!!」


 たまたま、わたしたちのいた教室の前を通りがかったらしい向日。
 そんな彼が、引退した今でも顔を出しているテニス部の部室で、仲間たちにとんでもない話をぶちまけたことを、息を止めながらどこまでキスできるか、なーんてことを始めちゃったわたしと宍戸は、知るよしもない。

 だから後日、


「おい、のヤツ、大丈夫なのか?」
「いざという時に一番大変なのは、女の子なんやで。もうちょい、気ぃ遣ってやりーな」
「? おお」


 そんなふうに、跡部と忍足が言ったことの意味も、当然彼には、なんのことかわからないわけで。

 結局、裏で何が起きていたのか知ったのは、起きてるだけでも珍しい芥川が、真剣な顔で、「宍戸とちゃんの赤ちゃんなら、きっとかわいいと思うけどさ、でも今後の生活とか大丈夫なの?」と、大真面目に聞いてきたからでした。


 ……まあ、立ち聞きしてたわけじゃないし、たまたま通りがかった向日に罪はないんだけどさ。
 でも、わたしの「生理が来ないの」発言にビックリして、ヤバさを感じて立ち去ったのなら、そんな断片的な話は広めるべきじゃなかったと思うわ。一部のテニス部員のみに駆け巡ったデマとはいえ、こっちもすごく驚いたんだからね。

 まったく、こんなことになるくらいなら、いっそ全部聞いてってほしかったよ……。



  教訓:一見、人の姿がなくても、安心してはいけない。
      ぶっちゃけ話をする時は、徹底的に気をつけろ。


−END−

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 1年に一度のゆったり更新で、この話もついに3話目を迎えました。
 でも、2人が本懐を遂げられるのは、もうちょっと先のことになりそうです(笑)

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2005.10.04

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