夏休み。
 この長期の休みを利用して、部活動の合宿を行うことは、決して珍しいことじゃない。
 現に今、わたしたち氷帝学園テニス部も、1週間の予定で東京から離れ、空気の清々しいこの土地に合宿に来たところなんだから。

 避暑地に名を連ねるこの場所には、本来なんの文句もなかったけど、でも実際現地に行った瞬間から、わたしは嫌な胸騒ぎを覚えるようになった。
 なぜなら――ここにはとても近くに、やたら古びた寺や、だだっ広い墓地があったから。



真夏の夜の…



 そして、合宿先での生活にも慣れた3日目の今日、ついに、嫌な予感は的中してしまったのである。
 夕食待ちの時間を、みんなで固まってそわそわと過ごしている時に言った、お祭り好きな向日の唐突な発言が、事の発端だった。


「なあなあ、せっかく近くに寺とかあるんだしさ、夜にみんなで肝試しやらねえ?」


 わたしの敗因は、「肝試し」という単語を聞いた瞬間に、思わず顔をひきつらせてしまったこと。
 そしてその顔を、一番見られてはならない奴――すなわち氷帝テニス部一の曲者、忍足侑士に、しっかり見られてしまったことである。

 わずかな動揺から気を取り直そうとしたその時、図らずも奴と目が合ってしまった。
 嫌なくらい、バッチリと。

 そして、時間にすれば1秒にも満たない間の表情変化で、忍足はわたしの真意を悟ったらしかった。目が合った瞬間の、忍足のやたらいい笑顔を、わたしは絶対忘れない。


「せやな。絶好のロケーションやし、普通にそこらでやるより、格段におもろいやろ」


 すると忍足のその言葉に、うとうととまどろんでいた芥川が、いきなり覚醒する。


「マジ? 俺さ、オバケとか嫌いだけど、面白いならやりたい!」


 そして、言うが早いか跡部に詰め寄り、


「なあなあ跡部、肝試しやろうよー! 俺、やりたいやりたいやりたい――!!」


 そんな芥川を、うんざりしたように見る跡部。

 大丈夫、跡部はこうした俗っぽいイベントには興味ないから、きっとこの提案を却下してくれる。
 現に今も、すっごくめんどくさそうな顔してるし、気の毒だけど、彼らの望みが叶うことはないだろう。


 ――と思ったのに……。


 ただ静かに夜を過ごしたいという、そんなわたしのささやかな願いは、向日・忍足・覚醒芥川という最強チームの前に、無残にも打ち砕かれた。
 何と、遊び好きな3人組の、とんでもない勢いに押し負けた跡部が、最終的に、「好きにしろ」と言ってしまったのだ。

 歓声を上げる向日たちを尻目に、肝試しなんてめんどくせーと言わんばかりのため息をつく跡部。
 もうっ、めんどくさいと思うなら、なんでもっと粘ってくれないの!
 一度持ったポリシーは、最後までビシッと貫きなさいよ!!


 もう、跡部は頼れない。
 こうなると、最後の頼りは自分自身である。
 頑張れ負けるなファイトだ、! わたしは、極力平静を装って、発言した。


「ちょっと待ってよ。肝試しってことは、当然夜なわけでしょ? この辺りは街灯も満足にないのに、そんなとこをうろつくなんて、危ないじゃない」
「真っ暗だから、迫力満点で面白いんだろ」


 そんな迫力はいらん!
 ――と、思わずそう叫び出しそうになる自分を抑えていたら、意外にも、この場面でわたしの賛同者が。


「けど、夜間外出なんて、監督の許可が下りるとは思えねーぞ。練習に専念しろとか文句言われる前に、やめといた方がよくねえ?」


 お、いいこと言うじゃん、宍戸。
 そうよそうよ、その通りよ!


「だいじょぶだいじょぶ。そんなの黙ってればいいって」


 ……そうよね、放蕩息子どもは、無断外泊なんてへっちゃらよね。
 いや、こんなとこで外泊する気は、さらさらないけど。


「でも、みんなが一斉に抜け出したら、いくらなんでもバレるでしょーが」
「そりゃさすがに、全員は無理やろ。せやから、とりあえずこのメンバーでええんちゃう?」
「こ、このメンバー……?」


 えー、見たところ、ここにいるのはレギュラー陣と準レギュラーが少々と…………………………それから、わたしだけなのですが。


 その事実を把握してから、恐る恐る忍足を見る。
 そして、目で問いかける。
 あいつは、そりゃもう楽しそうに頷いた。

 つまり――


「わ、わたしも!?」
「そりゃそうやろ。ん? もしかして、怖いんか?」


 こ、こいつ……。
 わかってるくせに! わかってて、こういう展開に持ち込んだくせに!!

 でも、言葉に詰まってなんかいられない。

 わたしは言った。
 言ってやった。
 胸を張って、潔く。


「ええ、怖いわよ! オバケとか幽霊とか、超苦手よ! テレビで心霊特集なんかやってようもんなら、即行でチャンネル替えるわよ!! 悪いか、コンチクショウ!!!」


 ううっ……普段、無駄にいばってる身には、弱点の暴露は、とってもイタい。


「うわー、清々しいまでに、スパッとキレてくれたなー」


 もうちょい強がるかと思ったわと、わたしの華麗な開き直りっぷりに、感心気味に忍足は言った。
 人を追い込んでおきながら、よくそんなことが言えたもんね、この男は。

 そりゃわたしだって、こんなこと、わざわざ言いたくなかったわよ。
 現に跡部なんて、「ガキじゃあるまいし、そんなものが怖いのかよ」って、バカにした目で見てるし、他の連中も跡部ほどじゃないにしろ、似たような視線で、面白そうにわたしを眺めてる。

 でもね、ここで下手に強がって、そのまま忍足のいいオモチャにされるくらいなら、自分の弱点を晒すことくらい、どうってことないわ。

 ええ、みっともないのは覚悟の上よ。でも、人間素直が一番なの。
 少なくとも、怖いものを怖いと主張していれば、肝試しに駆り出されて、よりいっそうからかわれることはないんだもの。


 なーのーにー、こいつらときたら!


「へー、って怖いのダメだったんだ」
「マジ? 俺も怖いのダメなんだ。おそろいおそろいー♪」
「いや、ジロー、それ絶対嘘だろ」
「でも、意外でした。先輩にも、弱点ってあったんですね」
「ま、怖がってくれる奴がおらな、肝試しはおもろないし。じゃあ、夜10時に、寺の境内に集合な。、そういうことなんで、遅刻せんように」
「チッ、結局やるのかよ。どうでもいいが、面倒事だけは起こしてくれるなよ」
「え? あの、ちょっと……」


 ちょっとちょっと、なんでわたしの参加が決定しちゃってんの!?


「いやー、楽しみやなあ」


 とんとん拍子の展開に、呆然とするわたしの肩を叩きながら、忍足は心の底から楽しそうな笑顔で、この場を後にした。どうやら向日と、肝試しルートの検討をするらしい。

 騒がしい面々が立ち去って、わずかに辺りが静まり返る。
 でもそれは最初だけで、やがて残された者たちも、次第に肝試しを話題に、会話に華を咲かせ始めた。その中で、わたしはポツンと立ち尽くす。


 ……もしや、今夜肝試しが始まることは、すっかり世間に認知されてしまった……?

 でもって、その肝試しのメンバーに、恥を忍んで、怖がりであることを暴露したさんが、なぜか混じってる……?


「あ、あのさ……わたし、肝試しヤダって言ったよね……?」


 思わず、そばにいた宍戸に確認。
 でも、宍戸の奴は、「知るかよ」とつれない返事。

 あんなに堂々と、カミングアウトしたのに……。
 わたしの渾身の叫びを聞き逃したなんて、こいつってば、一体どういう耳してんのよ。


 でも、この際、宍戸はどうでもいい。
 悪いのは、きっかけを作った向日であり、真っ先にこの提案に賛同して勢いをつけた芥川であり、どうでもいいところで頭の切れる忍足なんだから。

 その事実を思い返し、遠ざかる忍足たちの背中を、憎々しげに睨みつけるわたし。
 そんなわたしの後ろで、宍戸は「マジかよ……」と小さく呟き、なぜかため息をついていた。



◇   ◆   ◇   ◆   ◇



 そして夜はとっぷりと更け、間もなく時刻は、問題の10時。
 現在わたしは、忍足と向日に脇を固められ、目的地である寺の境内へ向けて、連行されているところなのであります。

 あの後、監督に肝試しのことを密告し、部員全員の夜間外出を阻止しようと目論んだけど、忍足たちはそんなわたしの行動など、余裕でお見通しだった。
 ちょっとでも監督に近づくそぶりを見せれば、即座に邪魔に入り、あれからかなりの時間があったにも関わらず、結局わたしは、監督の視界に入るチャンスすら得られなかった。

 そうこうしてるうちに時間が迫り、もはや逃亡しか道はないと覚悟を決めた途端に、こいつらに捕まって、今に至るわけなのです。


「いやー、楽しみやなあ」
「そーそー。さっき侑士と下見に来たんだけど、結構イイ感じだぜ、ここ!」


 ウキウキしながら言う2人組。
 なんでわざわざ手間暇かけて、怖い思いをしたがるのよ、バーカ。
 でも、バカみたいに浮かれてるわりに、なぜかそこに、逃げ出せるスキはないんだよなあ。

 まあ、ここで普通に走って逃げても、どうせすぐに追いつかれる。
 それに運よく逃げおおせても、この暗闇の中を、1人で歩いて宿舎に帰る度胸は、残念ながらなかったり。
 つまりここまで来た以上、わたしはもう、進むしか道はないってことなんだ。

 結局、動きようのない現状を確認したら、なんだかもう、いろんなことがムカついてきた。
 あまりのムカつきっぷりに、思わず舌打ちしてしまう。
 そんなわたしを、忍足はやっぱり面白そうに眺めてて。
 わたしの反応の1つ1つが、いじられる材料になるんだから、ほんとたまんないわ。


「やさぐれてんなあ、
「いいじゃん、肝試しくらいやったって。夏の風物詩だぜ」


 わたしをおちょくりたいだけの忍足と違い、純粋に肝試しを楽しもうとしている向日は気楽なもの。
 でも、どれだけ前向きに考えようとしても、向日のようにはなれなかった。


「……嫌な風物詩」


 肝試しなんてものを考え出して、なおかつそれを世に広めた人間を、わたしは一生恨んでやる。


「まあそう言わんと、この肝試しで、中学生活最後の夏を満喫しようやないか。そんなわけで、場を盛り上げるためにも、絹を裂くような悲鳴ってヤツを、ひとつよろしくな」


 そんなのよろしく頼まれても……。

 そう思い、深々とため息をついても、もう遅い。
 そのまま黙々と進むうちに、とうとう現場に到着してしまった。

 わたしのように、逃亡&妨害の恐れのない他のメンバーたちは、すでに全員集合している。
 そして全員揃ったことで、ついにこの魔のイベントは、幕を開けてしまったのだった。



◇   ◆   ◇   ◆   ◇



 肝試しの舞台は、この寺の横手にある、大きな墓地。
 一通りコースの説明をすると、細く刻んだ紙の束を手にした向日が、元気にこう言った。


「じゃあ、まずはペア決めしよーぜ。各自このクジを引いて、同じ番号が書いてある奴と一緒に行くこと」


 その発言に、ちょっとビックリ。

 ペア? もしかして2人で行くの?
 よかったー。てっきり、1人でこの暗闇を歩くもんだと思ってたから、心底ホッとしたよ。
 うん、これは嬉しい誤算だ。

 でも、気持ちが緩んだ矢先に、またも悪の関西弁が耳を突く。


「1人ずつやと、行方不明になった時に、発覚が遅れるからなあ」
「行方不明者が出るようなとこなのか!?」


 とっさに出た宍戸の問いは、まさにわたしの問いでもあった。
 その問いに対して忍足は、答えることなく、ただ唇の端をつり上げて、妙な笑いを浮かべるだけ。
 しかも、手持ちの懐中電灯で下から照らして、端正な顔に、不気味な陰影をつけての笑み。
 言い知れぬ迫力に、わたしと宍戸は、思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。

 もうもうもうっ、マジでやめてよ忍足! ほんとにシャレになんないって!
 これはさっさとクジ引いて、とっとと行って帰って来るのが得策ね。
 じゃなきゃ、忍足の悪行は、度は越す一方だ。
 でも、これでペアの相手が忍足だったりした時には、わたしほんとに泣くんだから!


 まあ幸いなことに、その悲痛な願いは、なんとか天に届いてくれた。
 クジ引きの結果、わたしの相手は、宍戸に決定☆

 宍戸なら、まあ安心だ。
 ただの同級生なだけで、別段親しい間柄じゃないけど、樺地や日吉に比べれば、よっぽど話は弾む相手。きっと適当にしゃべってるうちに、肝試しのコースなんて回り終えちゃうわよ。そうそう、そうに決まってる。

 そんなふうに自分を奮い立たせ、やがて順番が回ってくると、わたしと宍戸は、静かにスタートを切ったのだった。


 でも――やっぱり物事は、事前に立てた予想のように、すんなりとはいかないものなのね。


 歩き始めて、何分かたった。

 確かに宍戸は、普段からそうしゃべる方じゃない。
 かといって、物静かってわけでもない。
 なのになぜか……今においては、不自然なくらい、寡黙になった気がする。
 何か話してほしいんだけど、何も話してくれなくて、仕方なく、さっきからわたし1人でしゃべっている始末だ。


「き、肝試しなんて、向日もしょーもないこと言い出すわよねー」
「ああ」
「あいつってば、レギュラーの中で一番スタミナないくせに、こういう時だけ一番元気なんだから」
「ああ」
「忍足も、休み時間はおとなしく相棒を休ませとけってのよ。向日が息切れして、一番困るのはあいつなんだから。ねえ?」
「ああ」
「えーっと……」
「………………」


 こんな感じで、わたしが何かしゃべっても、宍戸は相槌オンリーで、サッパリ会話は弾まない。
 一言二言でも返してくれれば、そこから話が広がる可能性もあったけど、これじゃ無理。
 頑張ったけど、さすがにそろそろネタ切れです。
「沈黙は金なり」って言葉があるけど、金はいらないからこの沈黙をなんとかしてほしいと、わたしは切に願うわね。

 だってさ、しゃべってる間は、この状況を意識せずにすむからわりと平気なんだけど、口を閉ざした途端、周囲の暗闇が押し迫ってくる感じがするの。
 もちろん、そんなの気のせいなんだけどさ……ようするに怖いのよ、もうっ!

 そんなことを考えてる間にも、宍戸は淡々と……っていうか、ひたすらコースを突き進む。
 なんだか、歩くのが早い。ペア行動なんだから、もうちょっと同行者のこと考えなさいよ。


 そんなふうに会話もなくなり、2人して、ただ黙々と進んでいる時だった。
 横合いの繁みが、突然ガサッと、音を立てたのは。


 弾かれるように振り向くわたしたち。
 足を止めて音の方を見るけど、そこにあるのは、不自然に揺れる繁みだけ。


 わたしたちは顔を見合わせた。
 宍戸は、どこか強張った顔をしている。
 きっとわたしも似たような――むしろ、もっとすごい顔をしているだろう。
 それから2人同時に、再び問題の場所へと、視線を戻す。

 繁みを睨み据える宍戸。
 息を止めて、見つめるわたし。
 そして――そんな2人の目の前を横切る、謎の黒い影!


「うおっ!?」
「ひぎゃっ!?」


 ……と、2人分の大声に驚いたか、とっさに動きを止めた影が、思わずこちらを振り返った。

 その、謎の影の正体とは――










 ニャーオ










「……な、なんだ、猫かよ……」


 そう、いきなり飛び出して来たのは、ごくごくありふれた、1匹の猫だった。
 その途端、これでもかってくらい、安堵の息を吐くわたしと宍戸。

 お、おどかさないでよ……。今ので、心臓がありえないくらい飛び跳ねたわ。
 医学的にヤバいんじゃないかってくらい、脈拍もすごかったんだから。

 そんな心臓をなだめてる間に、猫はどこかへ行ってしまったけど、最初はとんでもない怪生物が飛び出てきたと、真剣に思った。
 落ち着いて考えてみれば、猫がいそうなことくらいわかるはずなのに……この暗闇のせいで、尋常な思考能力が、どっか行っちゃったのね。


 だからこそ、落ち着きが戻ってくると、派手に騒いだことが、無性に恥ずかしくなってくる。
 だってあれは、猫1匹に対する驚き方じゃなかったもん。

 チラリと宍戸の方を見れば、同じように、わたしを見ている目とぶつかった。
 向こうも似たようなものらしい。
 そして、慌ててわたしから視線を逸らすと、やたら偉そうにこう言った。


「おまえなあ、猫1匹見たくらいで、わけわかんねー声出してんじゃねーよ。せめてもうちょっと、女らしい悲鳴が上げられねえのか」
「うわっ、何それ!? 一緒になって悲鳴上げた人に、悲鳴のことをどうこう言われたくはないわよ!」
「べ、別に俺は、悲鳴を上げたわけじゃねえ!」


 ムキになって言う宍戸。
 いや、あれはどう聞いても悲鳴でしょ。


 ……と、ここでわたしは、あることに思い至った。



 肝試しの提案が出された時、懸命に回避を試みるわたしと共に、さりげなくそれを退けようとした宍戸。

 肝試しが決定した後、「マジかよ……」と呟きながら、ため息をついていた宍戸。

 そして道中、やたら無口で、やたら足早だった宍戸。



 ――もしかしてもしかしたら、肝試しが怖くて、さっさと終わらせたかったから?
 だから最初、肝試しの案を、押しとどめようとしてたんじゃ……。


 ――そうか。そうに違いない。
 謎はすべて解けた。
 わたしは宍戸をビシッと指差し、そして言った。


「宍戸、あんたほんとは怖いんでしょ?」
「……!?」


 驚愕の表情で、言葉に詰まる宍戸。
 バカだなあ、ここで黙ったら、「怖い」って言ってるのも同然よ。
 宍戸もわたしと同じく、隠れ怖がりだったのね。


「どうやら、わたしとあんたは同士だったみたいね」
「バ、バッキャロー! おまえと一緒にすんな! 別に俺は、怖くもなんともねえんだよ!」
「はいはいそうねー、亮ちゃんは暗いところもへっちゃらねー」
「……この野郎」
「何怒ってんのよ。やっぱり怖いの? まあ、あんまり怖いんなら、手をつないであげてもよくってよ」
「何言ってやがる。怖がってんのはそっちだろ。まあ、おまえがどうしてもって言うんなら、こっちこそ考えてやらなくもないぜ」


 なぜかそのまま、睨み合うわたしたち。
 つまり要約すると……結局、2人とも怖いんだね……。

 そのことに気づいたわたしたちは、ちょっとバツが悪くなった。
 でも、互いに目をそらしつつも、こっそり手はつないでたり。
 だって、やっぱり怖いんだもん。つまりこれは、利害の一致。


 そんなふうに理由をつけ、わたしたちはぎこちなく手をつないで、残りの道のりを進んだ。


 猫騒動での緊張で、わたしたちの手は、互いに汗でベタついていた。
 だから、ちょっとだけ気持ち悪かったけど、そんな不快感よりも、安心感の方がずっと大きい。
 怖くても誰かがそばにいてくれる、わたしは1人じゃないっていう、ホッとする証。

 すると、さっきまでは全然しゃべらなかった宍戸が、いきなり口を開いた。


「……なあ、
「ん?」


 隣を見れば、ちょっぴり心配顔の宍戸。


「その……大丈夫か?」
「うん、平気。宍戸は?」
「……余裕」


 今の間はなんだ?
 でも、なんだかんだ言ってたわりに、わたしのこと気遣ってくれるんだね。
 ほんとは宍戸の方が怖いくせに――とは、冗談でも言えないけど。

 だって、こんなとこで手を離されて、さっさと先に行かれたら、わたしほんとに帰れない。
 一度手に入れた、この大きな安心感は、もう絶対手放せないの。手放したくないの。

 その安心感のおかげで、それ以降のわたしたちはさほど怖がることもなく、何事もないままコースを回り、無事ゴールしてしまった。
 その時の忍足の、心底面白くなそうな顔といったら。
 なんとなく意趣返しできたような気がして、ちょっと気分よかったね。


 そして、今宵一番の悲鳴を上げたのは、なんと言い出しっぺの向日だった。
 わたしたち同様、いきなり飛び出してきた猫に驚いての悲鳴だったとか。
 あいにく、忍足ご所望の「絹を裂く」って感じじゃなかったけど、それに匹敵するものではあったと思うよ。だって、かなりの広範囲に響き渡った、ものすごい悲鳴だったもん。

 ちなみに、なぜそんなことがわかったかというと、肝試しを終えて帰りついたわたしたちを、宿舎の入り口で、榊監督が待ち受けていたから。向日の悲鳴は、宿舎にまで届くすさまじさだったってわけ。

 そんなわけで、わたしたちは、監督のねちっこいお説教を受ける羽目になった。
 さらにその後、全員そろって1時間正座の刑という、特別待遇つき。
 率先して肝試しを進めた忍足は、あれだけ面倒事を嫌ってた跡部の怒りも買って、そりゃもう大変だったみたいよ。まあ、わたしからすれば、いい気味って感じだけどね。


 でもって、これをきっかけに、より親睦を深めたわたしと宍戸がつき合うことになり、ますます忍足を面白くなくさせるのは、もうしばらく先の話。

−END−

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 夏休みが終わってだいぶたつのに、今頃夏休み中の合宿の話です。
 夏休み期間中には仕上げる予定だったのに、やたらもたついて、今頃の完成となりました。

 宍戸はこういうのって、実は結構、苦手そうな気がします。
 でも、「怖いのかよ、宍戸」とか言われたら、つい「こんな程度で怖いわけないだろ!」って、ムキになっちゃう感じ。で、平気そうな顔して、実は心臓バクバクさせてる宍戸を見て、忍足あたりが楽しんでると(笑)

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2003.09.21

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