「これいいな」
「うん、わたしもこれ好きだな」
「じゃあ、一緒に買っちゃう?」
「いいね。お揃いで買っちゃおう」



氷帝テニス部浪漫生活 06



 部活帰り、は、学校近くの雑貨屋に立ち寄った。
 そこで2人の目にとまったのは、ステンレス製のシンプルなマグカップ。
 すると、楽しげにそれを手にする彼女たちに、男性店員が明るく声をかけた。


「その商品なら、サービスで好きな名前を彫ってあげるよ」


 そう言われ、見本にいくつか並べられている商品を見やると、MASAMIやKAZUKIといったアルファベット名が、筆記体で軽やかに刻まれている。

 最初は興味なさげだった
 だが、何かを思いついたように、ふと呟いた。


「好きな名前?」
「そう、自分のでも自分のじゃなくても、なんでもいいよ」


 それを聞いて、しばし考えたは、


「じゃあ、DAISUKEでお願いします」
「DAISUKEね、了解。少し時間がかかるから、待っててね」


 要望がスムーズに通り、満足そうにマグカップを預けた
 けれど、店員が作業準備に入ったところで、突如その顔がしかめられた。
 ニヤニヤ笑いのの姿が、視界に映ったからだ。


「……何よ」
「だって、ダイスケって!」
「いいじゃん、別に!」


 その名前が何なのかを知っているだけに、は笑いを押さえきれなかった。
 なぜならそれは、の大好きな声優の名前だったから。


「せっかくだから、も頼めば? 誰かイチオシな人はいないの?」
「んー、いるにはいるんだけど、綴りがわからなくってさー」


 多分こうだと思うんだけど……と、自信なさげに、洋風の名前を宙に書く。
 どうやら、ゲームのキャラらしい。


「間違えたら悲しすぎるな……」
「そうだね。消せないもんね」


 変にしみじみしたところで、機械が金属を削る、甲高い音が鳴り響く。

 2人はそれを聞きながら、作業が終わるまで、適当に店内をぶらつくことにした。
 その、最初の一歩を踏み出した時である。


「あ」


 思わぬ光景に、の動きが止まった。
 そして店の外でも、同じように動きを止めた者たちがいた。

 まさかここで、窓越しに知り合いと目が合うとは。

 それは帰宅途中だった、テニス部の騒がしい顔触れ。
 向こうもこちらの存在に驚き、同様に口が「あ」の形で止まっている。

 だが、止まっていたのは一瞬だけ。
 たちまち向こうは、面白いものを見つけたとばかりに、勢いよく店内に入って来た。


「2人とも、さっさと帰ったと思ったら、こんなとこで寄り道してたのかー」
「女子って、こういうの好きだよな」


 陽気に声をかける向日と、彩り豊かな店内に、どこか気後れする宍戸。


「あんたたち、静かにしなさいよ! お店に迷惑でしょ!」
「いや、おまえが静かにしろよ」
の方がうるさいって」


 たちまち店内は、喧騒に包まれる。

 そんな彼らを気にもとめず、の視線は、作業中の店員に釘付けだった。
 そこへ、騒ぎに巻き込まれるのを嫌った忍足が近寄っていく。


「何か彫ってるけど、あれさんの?」
「うん、マグカップ買ったの」
「ふーん」


 そのまま会話もなく、2人はただ作業を見ていた。
 やがて機械の音が消え、つられるように、騒いでいたたちも静かになる。


「よし、できた。これでいいかな?」
「うん、ありがとう」


 出来映えを確認し、満面の笑顔で受け取る
 その手の中のマグカップに綴られた文字を見て、忍足が怪訝そうに首を傾げた時だった。

 店員がに、思いも寄らない言葉をぶつけたのだ。



「君は彼氏の名前彫らないの?」



 意味がわからず、きょとんとする
 だがすぐに、店員の勘違いに気がついた。

 はあくまで「好き」な名前を頼んだのだが、どうやら店員の中では「好きな人」の名前、すなわち彼氏になっていたらしい。


「ええ、いませんから」
「っていうか、彼氏じゃないし!」


 何事もなく、サラッと答えるに、否定しつつも、満更ではない顔の
 大好きな声優が彼氏に間違えられたのだから、嬉しくないはずがない。


 問題は、その辺りの状況を知らない男子たちだ。

 彼らはから距離を取ると、そのまま口々に疑問点を挙げていく。


「なあ、ダイスケって誰や?」
「前に電話でしゃべってたのは、タカユキってヤツだったよな?」
「もう会えないって泣いてたのは、誰のことなんだ?」


 困惑気味なその声は、浮かれている彼女たちには届かない。

 またしても、思わぬところで思わぬ誤解を招いてしまっただった。

−END−

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 ダイスケって名前の声優さんはたくさんいるので、ヒロインが好きなのは、きっとその中の誰かでしょう(笑)

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2011.04.01

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