氷帝テニス部浪漫生活 05



 皆さん、こんにちは。
 氷帝テニス部2年、鳳長太郎です。

 ややこしい問題で、混乱していた男子テニス部だけど、先輩を迎え入れたことで、ようやく落ち着きを取り戻しました。

 まあ、先輩が強引に引き込んだから、最初はかなり戸惑ってたみたいけど。
 でも、そんな先輩も、少しずつ俺たちになじんでくれて、最近はとてもうまくいってたんですよ。


 先輩の笑顔と、景気よく発破をかける、先輩の元気な声。
 それはいつしか定着した、部活の際には、あって当然のものだったのに。


 なのに今、あって当然だったそれが、どういうわけかありません。
 それどころか、2人そろって、とても元気がないんです。


「……ちゃん、ちゃん、どうしたの?」


 いつもなら寝ているはずの芥川先輩も、おかしな空気を察知したのか、珍しくちゃんと起きてます。
 そして、恐る恐る2人に声をかけたけど、


「なんでもないのよ、ジロちゃん」
「そうだよ。だから、ちゃんと着替えて準備して。もうすぐ、部活始まるよ」


 そう言われ、さすがに芥川先輩も口をつぐみました。
 どう見たって、なんでもなくないけど、その件に触れてほしくないという、2人から漂う空気を察したみたいです。

 でも残念なことに、世の中には、空気の読めない人がいて。


「いや、なんでもなくないだろ。どう見たっておかしいぞ、おまえら」


 ……宍戸先輩。

 あなたへの尊敬は揺らぎませんが、でも、ちょっとだけがっかりです。
 2人が心配なのはわかるけど、今は無理に聞いたって、ダメだと思いますよ。


「ごめん……」
「……そっとしといて」


 ほらね。

 そう言うと、先輩と先輩は、悲しげに瞳を潤ませて――


 って、なんで2人とも泣きそうなんですか!

 おろおろしてないで、なんとかして下さい、宍戸先輩。
 今のは、下手に突ついた先輩の責任ですよ!


 でも、さすがは先輩と言うべきか。
 剛の者と名高い彼女は、すぐに気持ちを立て直すと、先輩のフォローをしつつ、遠巻きに見守る俺たちを促して、部活への流れに持ち込んだんです。

 とはいえ、いつもと違う2人のことは、やはりみんなも気になるようで。
 だからこの日は、部活に支障を来たさない程度に、マネージャー業に勤しむ先輩たちを、極力観察してました。


 いつもの2人なら、仕事をしつつも雑談で盛り上がって、少なからず、跡部部長に怒られるはず。
 でも今日は、2人とも言葉を出さずに、ため息ばかりを吐き出してます。


 まだ仕事に不慣れな先輩からは、一生懸命さが伝わるだけで、楽しさまでは窺えず。
 かといって、ここまで悲壮感を溢れさせるほど、部活嫌いな人でもないのに。
 ということは、部活以外の何かが、先輩をこうさせている……?

 しかも、跡部部長に匹敵するほど、強大な存在の先輩までが、同じように悲しみを堪えてるんだから、どう見たって、これは只事じゃありません。
 部活はきちんと勤めようとしてるだけに、なんだか2人とも、見てて痛々しいくらいで。


 そして部活後、ダブルスの連携を極めるべく、自主練として試合をしていた俺たちダブルス陣は、部室へ戻ろうとした時に、中でずっと話してたらしい、先輩と先輩の会話を、偶然聞いてしまったんです。


「わたしたち、こんなんじゃダメだよね」
「確かに、何をしてても、このことばかり考えちゃうのはね……。でも今は、そうなるのも仕方ないと思うよ」


 ……まさかこれって、現状に至る、根本の話では?


 それを耳にして、ドアを開けようと伸ばした腕が、思わず止まりました。

 そして、一斉にドアに張りつく、宍戸先輩と忍足先輩と向日先輩。
 ……俺も、右へ倣います。

 そんな俺たちの動きなど知るよしもなく、2人は静かに話を続け、


「いつか、こんな日が来るのはわかってたけど……」
「でもわたしは、まだまだ先のことだと思ってたよ」
「わたしも。……これでもう、彼には会えなくなっちゃうんだね」



 彼。



 先輩の口から飛び出したこの単語で、向日先輩がはしゃぎ出し、宍戸先輩と忍足先輩に押さえつけられました。
 向日先輩って、結構、恋バナ好きですよね。……まあ俺も、嫌いじゃないけど。


「でもさ、これまでの楽しい思い出は消えないよ。それにいくら悲しくたって、こんな思いをするくらいなら、いっそ出会わなきゃよかったなんて、思わないでしょ?」
「そうだね。今、この瞬間も、あの人を好きな気持ちは本物だもの。何より、こんな気持ちを感じられるのは、彼に出会えたからだしね」
「だからさ、悲しみを否定するのはやめよう。この悲しさは、好きな気持ちがあってこそのものだもん。好きだからこその気持ちなら、無下にするのはよくないって」


 いいこと言いますね、先輩。宍戸先輩たちも感心しています。

 けど、そう言いつつも、先輩たちに明るさは生まれません。


「でも……やっぱり寂しいよ」
「うん、寂しいね……」


 涙を帯びた2人の声に、何とも言えない沈黙が落ちた。

 着替えるためには、中に入る必要がある。
 でも、とてもじゃないけど、それができる雰囲気ではなくて……。
 やむなく、俺たちは一度、部室から離れることにしました。


「もしかしてのヤツ、彼氏と別れたんじゃねえ?」
「でも、単に別れただけにしては、悲壮感溢れすぎやで」
「何より、があそこまで親身になるって、只事じゃねえぞ」


 先輩の認識が、何気にひどいですよ、宍戸先輩。

 とにかく、先輩と先輩が、大きな悩みを抱えていることは明白で。
 いつもの2人を知っているから、なおさらそれがよくわかる。
 だから、なんとか力になりたいと、みんなそう思ったんです。


 俺たちは、真剣に話し合った。


 2人は、この件に触れたがらない。
 なら、今後何かがあって、2人が相談を求めてきたら、その時こそ全力で助けになろう。

 俺たちの意見が一致するのに、時間はかからなかった。
 人前で涙を見せずに、頑張る2人を守ってあげたいって……先輩たちも俺自身も、今この瞬間、心からそう思ったんです。










 大好きな漫画の、9年に渡る連載が終了――

 2人の落ち込んでる理由が、そうとは知らない俺たちは、仲間意識をたぎらせて、ひたすら熱く燃えていた。

−END−

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 原作最終巻、発売記念に。ありがとう、テニプリ!

 彼らが、この出来事の真相を知る日は来るのか。
 そして彼女たちは、新たな萌えの源を、見つけることができるのか。
 謎は深まるばかりです(笑)

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2008.06.04

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