放課後の素敵なひととき、皆さんいかがお過ごしですか?
 こんにちは、です。


 わたしは今、友人のを、これでもかというほど、暖かく見守っているところです。
 なぜか、テニス部の主立った面々と一緒に。
 しかも、物陰に隠れて……。

 傍目には、すごくアヤしい感じです。
 その上、メンバーがメンバーなので、逆にすごく目立ちます。とてもじゃないけど、隠密行動とはいえません。
 っていうか、そもそもこの行動自体が、ものすごく謎なのです。


「あのさ、今頃聞くのもどうかなーとは思うんだけど……なんでみんな、ここでこうしてるのかな?」



氷帝テニス部浪漫生活 04-B



「だってさ、あれ絶っっっ対、男だぜ」
先輩が……なんだか意外ですね」


 食いつくように見ているがっくんの言葉を、心底意外そうに受けとめる長太郎。
 そんな彼らの視線の先にいるのは、携帯電話で楽しげに話している我が友人、

 それは、つい先程のこと。
 間もなく部活が始まろうという時に、ふいにの携帯が鳴り出した。
 そしてあの子は、相手を確認するや否や、大急ぎで人気のない方へと走り去ってしまったのだ。

 そんな、「この会話を聞かれたくありません!」と言わんばかりの行動を見せられて、連中が面白がらないはずがない。
 そんなわけで、にバレないよう、みんなで後をつけてきたってわけ。

 わたし? わたしはみんなが一定以上に踏み込まないよう、ストッパーとしてついてきただけよ。
 ……ほんとよ? 「黙って見てたら面白そう☆」なーんて、ほんのちょっとしか思ってないんだから。


 そして、ある程度接近したところで聞こえ始めたの声に、全員で耳を傾ける。


「今部活やってるんで、思うように時間がとれなくて……。タカユキさんの方は、調子どうですか?」


 突如聞こえてきた固有名詞に、わたしの周囲は、途端に色めき立つ。


「今、タカユキって言ったー?」


 隠密行動に飽きたのか、今にも眠りそうなジロちゃんが問う。
 みんなはそれに、激しく同意しながら、


「男だ。あれは、完っ璧に男だ」
のヤツ、彼氏なんていたんだなー」


 興味津々に聞き入りながら、驚きの声をもらす、がっくんと宍戸。
 そんな彼らを見ながら、ついつい苦笑するわたし。

 そりゃ、「タカユキ」っていうのは、普通に考えれば、確かに男の名前だけど。
 でもわたしは、この名前に聞き覚えがある。
 タカユキ……確かあの子の友達に、そんなペンネームの子がいたはずだ。
 そう、ペンネーム。実際は女の子よ。


「明日どうしても外せない用事ってのは、デートなんやろな。……ん?」


 納得と言わんばかりの忍足が、近くに影が差したことで、ふと顔を上げる。
 するとそこには、どっしりと立つ樺地の姿が。


「もう……部活の時間です」
「げっ、もうそんな時間!? でもさー、今すっげーいいところなんだよ!」
「そうや、樺地。あとちょっとだけ猶予をくれ!」


 樺地の言葉に、切実な面持ちで返す、がっくんとおっしー。

 あー、樺地、困ってるなあ。わざわざ探しに来たってことは、きっと跡部の命令だろうし。
 かといって、先輩たちを引きずって連れて行くわけにもいかないって、葛藤してる感じだわ。


「ごめんね、樺地。あと5分だけ待って」


 助け船――といえるかどうかわからないけど、ひとまず樺地を、その場にとどめる。

 でも、つい面白がって見入っちゃったけど……これって、あんまりほっとくと、おかしなことになるわよね。

 ちょっと、。なんだか変な誤解をされてるよ。
 それ以前に、あまりおかしなこと口走ると、隠してる趣味のことまでバレちゃうから。
 そうなるとテニス部のマネージャーを辞めちゃうかもしれないわけで……って、それ、すっごくまずいじゃん!

 ど、どうしよう? わたし、止めに入った方がいいのかな?
 でもそれって、から見ても、おっしーたちから見ても、すっごく不自然な行動よね。


 でもわたしの迷いは、即座に打ち切られた。
 だって、なぜかのところに、跡部がやって来ちゃったから。

 わたしたちを探しに出た樺地が全然戻らないから、痺れをきらして、自ら捜索に出たみたい。
 そのせいか、機嫌が悪くて、珍しくに絡んでいる。


「電話1つするだけで、えらくテニスコートから離れたもんだなあ、
「そ、そんなの、跡部くんに関係ないでしょ」
「確かに関係ねえけどな。でも、男絡みで部活に支障をきたされたんじゃ、こっちだってたまったもんじゃねえんだよ」
「男絡み!?」


 え? ちょっと、何言ってんのよ、跡部まで。
 二次元世界に思いを馳せるの身辺に、生身の男なんているわけないでしょうが!
 ……って、事情を知らないと、そんなことわからないか。

 それに跡部は、マネージャー集団辞職事件のせいで、部活内に恋愛事を持ち込むことに、えらく敏感になっちゃったし。
 あれで結構、繊細なとこがあるのよねー……って、今はそんなこと、どうでもいいんだ。


 いつの間にやら、険しいまなざしで向き合う、跡部と

 うーん……なんだか、雲行きがアヤしくなってきたな。
 やむなくわたしは、隠れるのをやめて、この場を収めるべく、2人の間に割り込んだ。


「まあまあ、跡部。プライベートの話はいいじゃない。とにかく、早く部活を始めましょ」
! てめえ、今までどこにいやがった!?」
「え? えーと……みんなでこの辺りを、ブラブラ散歩していたり?」


 しまった。なんとかしようと思って出て来たのはいいけど、ここにいることを追及される可能性をすっかり忘れてた。部活前に姿を消したのは、わたしも同じだったのに。
 でも、その点に関しては他のみんなも同じだから、なんとかうまくごまかせた。

 でもは、訝しげにこっちを見ている。
 あー……さすがに、盗み聞きしてるのバレちゃったかな。


「そういえば、。みんなそろって、あんなところで何してたのよ?」


 やっぱりバレてたか。

 それを聞いて、そそくさと引き返していく仲間たち。
 でも、跡部のと違って、こっちの質問は想定内なの。


「いや、あんたが携帯抱えていそいそと出ていくのを、みんなが面白がって後つけようとしてたから。だからわたしは、必要以上に接近しないよう、頑張って止めてたのよ」
「え、そうだったの? ありがとう!」


 わたしの言葉を信じて、は素直に礼を述べた。


「ふふっ、どういたしまして」


 ごめんね。それは嘘じゃないけど、本当でもないのよ。
 みんなが勘違いしてるのを見るの、ドキドキしつつも、結構面白かったから。

 そんなことがあったとは知らないは、明日のイベントを心待ちにして、やたらと上機嫌。
 そのせいか、いつもに比べて、動きもきびきびして。
 おかげでますます、男連中の疑惑は深まっていった。

 この手の話題が好きなのは、女の方と思われがちだけど、だからって、男がそうした話題に興味がないわけじゃないのよね。
 何しろ渦中の人物は、男っ気のいっさい感じられない
 しかも、不本意なマネージャー業を引き受ける代わりに、この日だけは、何がなんでも休みにしろと指定をしてきたのだ。


「楽しみだなー。明日、何着て行こっかなー♪」
「まあ……動きやすいのがいいんじゃない?」


 でも、面白がるのは、そろそろ終了。
 渋々とはいえ、わたしのためにマネージャーを引き受けてくれた友人のために、わたしだって、の望むことをしてあげなくちゃ。
 だから、明日はしっかり楽しんでおいでね。



◇   ◆   ◇   ◆   ◇



 翌日。練習試合は滞りなく終わり、みんなでさくさく帰路につく。

 とはいえ、レギュラー陣だけは、この後、学校に戻ってミーティングなんだけどね。

 完璧なように見えたって、それぞれの反省点はやっぱりある。
 だから、各自が試合での動きを忘れないうちに、議論しておきたいらしい。
 一見、華々しく見えるうちのテニス部だけど、こうした地道な積み重ねだって、大事にしてるのよ。


「あーあ、今日も1日、テニスで終わりかー。嫌なわけじゃねえけど、なんていうか、こう……もうちょっと、華やぎが欲しいよなー」
「今頃、はデートか。気楽なもんだな」


 がっくんのボヤきを流しつつ、宍戸が言う。
 そしてそれをきっかけに、再び、の彼氏疑惑が盛り上がり始めた。


「でも、あのがつき合う相手って、どんなだろうな?」
「少なくとも、おまえみたいに、やかましいヤツじゃないだろうよ」
「うっせーよ、くそくそ跡部! なあ、、友達なら何か知ってんだろ? 一体どんなヤツなんだよ、の彼氏って」
「えっ!? ど、どうって言われても……」


 唐突に向けられた矛先に、さすがのわたしも、一瞬固まった。

 気がつけば、みんなの視線はわたしに集中。
 ち、ちょっと興味ありすぎなのでは?

 こんな状態で、今さら相手は彼氏じゃなくて、実は女の子なんです……なんて、言いづらいな。
 やっぱり面白がらずに、きちんと誤解をといておくんだった。

 そんなことを考えて、ちょっと困り始めた時、


「あ! あれ、ちゃんじゃねー?」


 それまで樺地に背負われて、うつらうつらしていたジロちゃんが、ふいに大きな声を上げた。
 なんの前触れもなく、いきなり耳元で叫ぶから、さすがの樺地もビクッとする。
 うわー、珍しいものを見たよ。

 けど、みんなにとっての珍しいものは、樺地の驚く姿じゃなくて。
 ジロちゃんの指差す先に注がれた、みんなの視線を辿っていくと、そこには確かに、イベント仕様の、めかし込んだの姿があった。


「ほんとだ。おーい、ー!」
「へえ……」
「ほー……」
「見違えましたね、先輩」
「ああ、なかなかのもんじゃねえか」


 元気に手を振るがっくんの傍らで、おっしーと宍戸と長太郎が、驚きながらを見つめていた。
 そして跡部までもが、感心したような呟きを漏らす。

 いつもは、周りの風景に溶け込まんばかりに、平々凡々な出で立ちのあの子も、ちょっと手を加えるだけで、かなり映えるのよねー……って、いつもと違う格好してるだけで、見惚れてんじゃないわよ、野郎ども!


 その後、こちらに気がついたは、一瞬固まったものの、すぐに気を取り直して、すたこらさっさと逃げていった。
 まあ、あんなカバンを抱えていたら、無理もないわ。
 わたしの忠告を聞いてか、それなりに動きやすい服装をしてたのが、幸いしたようね。


「あれっ? どうしたの、ちゃん。俺たち、こっちだよー!」
「……もしかして、逃げてる?」


 がっくん、正解。
 そして、それを悟るや否や、たちまちみんなは色めき立った。


「は? なんでだよ」
「やっぱり男なんだ! きっと近くにいるんだぜ」
「そんなにつき合ってること、知られたくないんですか?」
「おいおい、一体どんな男なんだよ」


 ……まあ、好きに騒げばいいわ。どうせには、聞こえてないだろうし。

 でも、これは明日会った時が楽しみね。
 そうして、ウキウキ気分で傍観者に徹していたら、


「なあ、! おまえなら知ってんだろ、の彼氏。ケチケチしないでおしえろよ!」
「へ!?」


 ……あら? 何やらピンチっぽいですよ、さん。

 詰め寄るがっくんの後ろには、興味津々の視線を向ける、その他大勢の姿がある。
 ……どうやら、面白がってたツケがきたようで、残念ながら、わたしに傍観は許されないらしい。


「あー……の彼氏……の彼氏ね……」
「そう、の彼氏!」


 しょうがない、観念するかな。
 観念して、真実を告げた方がいいよね。

 ……別に言わなくたって、わたしは困らないけど。

 ………………なら、観念しない方が面白いんじゃない?


「んーとね……………………………………………………秘密」
「えー!?」


 ごめん、! ギリギリまで良心と戦ったけど、やっぱり悪戯心は消せなかったよ。
 とはいえ、嘘はついてないし……って、単に、否定も肯定もしなかっただけだけど。
 でもそれが、かえっての謎の彼氏を、みんなの中に印象付けてしまったようで。


「なあなあ、。別に、おまえの交際を邪魔しようってんじゃねーからさ。せめて、どんな相手かくらいは、おしえてくれてもいいんじゃね?」
「へ?」


 案の定、翌日はがっくんたちから、いもしない男のことを追及される、の姿があった。
 それに対して、は心底不思議そうで、


「何か言われるとは思ったけど、なんであの状況で、男がどうこうって話になるの?」
「バカね。あの状況だからでしょ」


 まあ、主な原因は、の状況より、わたしの状況にあるんだけど。

 でも、それを言ったら、怒られること間違いなし。
 だから、何がどうしてこうなったのかは、わたしだけの秘密にしておこうっと。

−END−

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 04-Bは友人バージョン。
 04-Aの傍らで、彼女はこんなことをしてました。

 それにしても、岳人がやたら、コイバナに興味のある子になっちゃったな。私の中のがっくんは、どちらかといえば硬派な子なのに(笑)
 でも、こうした話に、面白がって首を突っ込む岳人というのも、それはそれで好きなのです。

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2007.06.15

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