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放課後の素敵なひととき、皆さんいかがお過ごしですか? こんにちは、です。 わたしは今、友人のを、これでもかというほど、暖かく見守っているところです。 なぜか、テニス部の主立った面々と一緒に。 しかも、物陰に隠れて……。 傍目には、すごくアヤしい感じです。 その上、メンバーがメンバーなので、逆にすごく目立ちます。とてもじゃないけど、隠密行動とはいえません。 っていうか、そもそもこの行動自体が、ものすごく謎なのです。 「あのさ、今頃聞くのもどうかなーとは思うんだけど……なんでみんな、ここでこうしてるのかな?」 「だってさ、あれ絶っっっ対、男だぜ」 「先輩が……なんだか意外ですね」 食いつくように見ているがっくんの言葉を、心底意外そうに受けとめる長太郎。 そんな彼らの視線の先にいるのは、携帯電話で楽しげに話している我が友人、。 それは、つい先程のこと。 間もなく部活が始まろうという時に、ふいにの携帯が鳴り出した。 そしてあの子は、相手を確認するや否や、大急ぎで人気のない方へと走り去ってしまったのだ。 そんな、「この会話を聞かれたくありません!」と言わんばかりの行動を見せられて、連中が面白がらないはずがない。 そんなわけで、にバレないよう、みんなで後をつけてきたってわけ。 わたし? わたしはみんなが一定以上に踏み込まないよう、ストッパーとしてついてきただけよ。 ……ほんとよ? 「黙って見てたら面白そう☆」なーんて、ほんのちょっとしか思ってないんだから。 そして、ある程度接近したところで聞こえ始めたの声に、全員で耳を傾ける。 「今部活やってるんで、思うように時間がとれなくて……。タカユキさんの方は、調子どうですか?」 突如聞こえてきた固有名詞に、わたしの周囲は、途端に色めき立つ。 「今、タカユキって言ったー?」 隠密行動に飽きたのか、今にも眠りそうなジロちゃんが問う。 みんなはそれに、激しく同意しながら、 「男だ。あれは、完っ璧に男だ」 「のヤツ、彼氏なんていたんだなー」 興味津々に聞き入りながら、驚きの声をもらす、がっくんと宍戸。 そんな彼らを見ながら、ついつい苦笑するわたし。 そりゃ、「タカユキ」っていうのは、普通に考えれば、確かに男の名前だけど。 でもわたしは、この名前に聞き覚えがある。 タカユキ……確かあの子の友達に、そんなペンネームの子がいたはずだ。 そう、ペンネーム。実際は女の子よ。 「明日どうしても外せない用事ってのは、デートなんやろな。……ん?」 納得と言わんばかりの忍足が、近くに影が差したことで、ふと顔を上げる。 するとそこには、どっしりと立つ樺地の姿が。 「もう……部活の時間です」 「げっ、もうそんな時間!? でもさー、今すっげーいいところなんだよ!」 「そうや、樺地。あとちょっとだけ猶予をくれ!」 樺地の言葉に、切実な面持ちで返す、がっくんとおっしー。 あー、樺地、困ってるなあ。わざわざ探しに来たってことは、きっと跡部の命令だろうし。 かといって、先輩たちを引きずって連れて行くわけにもいかないって、葛藤してる感じだわ。 「ごめんね、樺地。あと5分だけ待って」 助け船――といえるかどうかわからないけど、ひとまず樺地を、その場にとどめる。 でも、つい面白がって見入っちゃったけど……これって、あんまりほっとくと、おかしなことになるわよね。 ちょっと、。なんだか変な誤解をされてるよ。 それ以前に、あまりおかしなこと口走ると、隠してる趣味のことまでバレちゃうから。 そうなるとテニス部のマネージャーを辞めちゃうかもしれないわけで……って、それ、すっごくまずいじゃん! ど、どうしよう? わたし、止めに入った方がいいのかな? でもそれって、から見ても、おっしーたちから見ても、すっごく不自然な行動よね。 でもわたしの迷いは、即座に打ち切られた。 だって、なぜかのところに、跡部がやって来ちゃったから。 わたしたちを探しに出た樺地が全然戻らないから、痺れをきらして、自ら捜索に出たみたい。 そのせいか、機嫌が悪くて、珍しくに絡んでいる。 「電話1つするだけで、えらくテニスコートから離れたもんだなあ、」 「そ、そんなの、跡部くんに関係ないでしょ」 「確かに関係ねえけどな。でも、男絡みで部活に支障をきたされたんじゃ、こっちだってたまったもんじゃねえんだよ」 「男絡み!?」 え? ちょっと、何言ってんのよ、跡部まで。 二次元世界に思いを馳せるの身辺に、生身の男なんているわけないでしょうが! ……って、事情を知らないと、そんなことわからないか。 それに跡部は、マネージャー集団辞職事件のせいで、部活内に恋愛事を持ち込むことに、えらく敏感になっちゃったし。 あれで結構、繊細なとこがあるのよねー……って、今はそんなこと、どうでもいいんだ。 いつの間にやら、険しいまなざしで向き合う、跡部と。 うーん……なんだか、雲行きがアヤしくなってきたな。 やむなくわたしは、隠れるのをやめて、この場を収めるべく、2人の間に割り込んだ。 「まあまあ、跡部。プライベートの話はいいじゃない。とにかく、早く部活を始めましょ」 「! てめえ、今までどこにいやがった!?」 「え? えーと……みんなでこの辺りを、ブラブラ散歩していたり?」 しまった。なんとかしようと思って出て来たのはいいけど、ここにいることを追及される可能性をすっかり忘れてた。部活前に姿を消したのは、わたしも同じだったのに。 でも、その点に関しては他のみんなも同じだから、なんとかうまくごまかせた。 でもは、訝しげにこっちを見ている。 あー……さすがに、盗み聞きしてるのバレちゃったかな。 「そういえば、。みんなそろって、あんなところで何してたのよ?」 やっぱりバレてたか。 それを聞いて、そそくさと引き返していく仲間たち。 でも、跡部のと違って、こっちの質問は想定内なの。 「いや、あんたが携帯抱えていそいそと出ていくのを、みんなが面白がって後つけようとしてたから。だからわたしは、必要以上に接近しないよう、頑張って止めてたのよ」 「え、そうだったの? ありがとう!」 わたしの言葉を信じて、は素直に礼を述べた。 「ふふっ、どういたしまして」 ごめんね。それは嘘じゃないけど、本当でもないのよ。 みんなが勘違いしてるのを見るの、ドキドキしつつも、結構面白かったから。 そんなことがあったとは知らないは、明日のイベントを心待ちにして、やたらと上機嫌。 そのせいか、いつもに比べて、動きもきびきびして。 おかげでますます、男連中の疑惑は深まっていった。 この手の話題が好きなのは、女の方と思われがちだけど、だからって、男がそうした話題に興味がないわけじゃないのよね。 何しろ渦中の人物は、男っ気のいっさい感じられない。 しかも、不本意なマネージャー業を引き受ける代わりに、この日だけは、何がなんでも休みにしろと指定をしてきたのだ。 「楽しみだなー。明日、何着て行こっかなー♪」 「まあ……動きやすいのがいいんじゃない?」 でも、面白がるのは、そろそろ終了。 渋々とはいえ、わたしのためにマネージャーを引き受けてくれた友人のために、わたしだって、の望むことをしてあげなくちゃ。 だから、明日はしっかり楽しんでおいでね。 翌日。練習試合は滞りなく終わり、みんなでさくさく帰路につく。 とはいえ、レギュラー陣だけは、この後、学校に戻ってミーティングなんだけどね。 完璧なように見えたって、それぞれの反省点はやっぱりある。 だから、各自が試合での動きを忘れないうちに、議論しておきたいらしい。 一見、華々しく見えるうちのテニス部だけど、こうした地道な積み重ねだって、大事にしてるのよ。 「あーあ、今日も1日、テニスで終わりかー。嫌なわけじゃねえけど、なんていうか、こう……もうちょっと、華やぎが欲しいよなー」 「今頃、はデートか。気楽なもんだな」 がっくんのボヤきを流しつつ、宍戸が言う。 そしてそれをきっかけに、再び、の彼氏疑惑が盛り上がり始めた。 「でも、あのがつき合う相手って、どんなだろうな?」 「少なくとも、おまえみたいに、やかましいヤツじゃないだろうよ」 「うっせーよ、くそくそ跡部! なあ、、友達なら何か知ってんだろ? 一体どんなヤツなんだよ、の彼氏って」 「えっ!? ど、どうって言われても……」 唐突に向けられた矛先に、さすがのわたしも、一瞬固まった。 気がつけば、みんなの視線はわたしに集中。 ち、ちょっと興味ありすぎなのでは? こんな状態で、今さら相手は彼氏じゃなくて、実は女の子なんです……なんて、言いづらいな。 やっぱり面白がらずに、きちんと誤解をといておくんだった。 そんなことを考えて、ちょっと困り始めた時、 「あ! あれ、ちゃんじゃねー?」 それまで樺地に背負われて、うつらうつらしていたジロちゃんが、ふいに大きな声を上げた。 なんの前触れもなく、いきなり耳元で叫ぶから、さすがの樺地もビクッとする。 うわー、珍しいものを見たよ。 けど、みんなにとっての珍しいものは、樺地の驚く姿じゃなくて。 ジロちゃんの指差す先に注がれた、みんなの視線を辿っていくと、そこには確かに、イベント仕様の、めかし込んだの姿があった。 「ほんとだ。おーい、ー!」 「へえ……」 「ほー……」 「見違えましたね、先輩」 「ああ、なかなかのもんじゃねえか」 元気に手を振るがっくんの傍らで、おっしーと宍戸と長太郎が、驚きながらを見つめていた。 そして跡部までもが、感心したような呟きを漏らす。 いつもは、周りの風景に溶け込まんばかりに、平々凡々な出で立ちのあの子も、ちょっと手を加えるだけで、かなり映えるのよねー……って、いつもと違う格好してるだけで、見惚れてんじゃないわよ、野郎ども! その後、こちらに気がついたは、一瞬固まったものの、すぐに気を取り直して、すたこらさっさと逃げていった。 まあ、あんなカバンを抱えていたら、無理もないわ。 わたしの忠告を聞いてか、それなりに動きやすい服装をしてたのが、幸いしたようね。 「あれっ? どうしたの、ちゃん。俺たち、こっちだよー!」 「……もしかして、逃げてる?」 がっくん、正解。 そして、それを悟るや否や、たちまちみんなは色めき立った。 「は? なんでだよ」 「やっぱり男なんだ! きっと近くにいるんだぜ」 「そんなにつき合ってること、知られたくないんですか?」 「おいおい、一体どんな男なんだよ」 ……まあ、好きに騒げばいいわ。どうせには、聞こえてないだろうし。 でも、これは明日会った時が楽しみね。 そうして、ウキウキ気分で傍観者に徹していたら、 「なあ、! おまえなら知ってんだろ、の彼氏。ケチケチしないでおしえろよ!」 「へ!?」 ……あら? 何やらピンチっぽいですよ、さん。 詰め寄るがっくんの後ろには、興味津々の視線を向ける、その他大勢の姿がある。 ……どうやら、面白がってたツケがきたようで、残念ながら、わたしに傍観は許されないらしい。 「あー……の彼氏……の彼氏ね……」 「そう、の彼氏!」 しょうがない、観念するかな。 観念して、真実を告げた方がいいよね。 ……別に言わなくたって、わたしは困らないけど。 ………………なら、観念しない方が面白いんじゃない? 「んーとね……………………………………………………秘密」 「えー!?」 ごめん、! ギリギリまで良心と戦ったけど、やっぱり悪戯心は消せなかったよ。 とはいえ、嘘はついてないし……って、単に、否定も肯定もしなかっただけだけど。 でもそれが、かえっての謎の彼氏を、みんなの中に印象付けてしまったようで。 「なあなあ、。別に、おまえの交際を邪魔しようってんじゃねーからさ。せめて、どんな相手かくらいは、おしえてくれてもいいんじゃね?」 「へ?」 案の定、翌日はがっくんたちから、いもしない男のことを追及される、の姿があった。 それに対して、は心底不思議そうで、 「何か言われるとは思ったけど、なんであの状況で、男がどうこうって話になるの?」 「バカね。あの状況だからでしょ」 まあ、主な原因は、の状況より、わたしの状況にあるんだけど。 でも、それを言ったら、怒られること間違いなし。 だから、何がどうしてこうなったのかは、わたしだけの秘密にしておこうっと。 −END−
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