これは氷帝と六角の夏休み合同合宿という、水城黎亜さん(Future's Mine/closed)が企画された「ぼくらのなつやすみ」に投稿させていただいた作品に、若干加筆したものです。


 今回の話に至る状況については、まずはこちらをご覧下さい。 → ぼくらのなつやすみ


 まあ大まかに説明すると、跡部たちが榊太郎(43)氏に合宿を勧められて千葉まで行ってみたら、そこになぜか六角中の面々が。どうやら今年の春に潰れた旅館を合宿所にして、彼らと1週間合同合宿をすることになってしまったらしい――ということです。











 もうみんなはとっくに着いて、今頃テニスしてんのかなー。

 炎天下の街中を汗を流して歩きながら、わたしは千葉へ合宿に向かったテニス部の仲間たちのことをふと思った。
 せっかくの夏休み、母の買い物の荷物持ちにされるくらいなら、わたしも一緒に行きたかったよ。
 あーあ、1人だけ不参加なんてつまんない。



その時キミは



 今日から1週間、跡部たちは合宿として千葉へ行くことになった。

 この合宿、元レギュラー陣が主体のメンバーだったから、マネージャーとして常に一緒にいたわたしも当然行くものと思ってたら、なぜか監督から待ったの声。

 どうやら保護者となるべき監督は、今回の合宿に同行しないらしいのね。
 男子ばかりの中に女子1人を置いて、何かマチガイが起きたら大変だとか言って、残念ながらわたしの参加は許可されなかった。

 わたし1人のけ者にされたみたいでちょっと面白くなかったけど、でもメンバーがメンバーだから、マチガイってのはあながちシャレにならないのよね。
 まあわたしも、無用な危険は回避したいし、しょうがないから、今回はおとなしく監督の意見に従うことにした。


 そんなわけで、みんなと違い、自宅での夏休みを堪能することになったわたし。
 でも昼まで寝てようと心に決めたその日の朝、なぜかいきなり母に叩き起こされた。
 スーパーの特売で、激安卵が1人1パックしか買えないから、あんたも一緒に来て卵買いなさい――だって。

 卵なんて、この時期傷みやすいのに、どうしてわざわざ2パックも買うのかと文句を言ったら、「昼間あんたが家にいるぶん、昼ごはんを作る量が増えるのよ。なら当然、材料だって増えるでしょ!」と怒られてしまった。そ、そう言われると行かないわけには……。

 そういうわけで、わたしは開店早々、母と一緒にスーパーに飛び込みました。
 特売卵の威力はすさまじく、わたしたち親子が行った時には、すでにかなりの数を減じていた。
 夏休みに入った以上、どこの家庭も同じってことですかね。でも、無事にゲットできたからよかったよ。

 その後もなんやかんやと買い物につき合わされ、大量の荷物と共に帰宅したのは、すでにお昼過ぎ。ああ、疲れた……。
 でもそんなわたしと違い、お母様はほくほく笑顔。
 ったく、これじゃどっちが若いのか、わかったもんじゃない。


「あんたが一緒だったから、いろいろ買えてよかったわー」
「つーか、買いすぎなんじゃ……。ここまで買い込んだくせに、結局ほったらかしすぎて、賞味期限過ぎましたーなんてことになったら、わたし怒るからね」
「賞味期限なんて、多少過ぎても問題ないじゃない」
「夏は危ないでしょ!」
「それよりさ、あんたの部屋の方から、何か聞こえてこない?」
「何かって?」


 母に言われ、わたしは耳をそばだてる。


 確かに――何か聞こえてくる。
 かすかに耳に届くのは音楽、それもとても耳慣れた――っていうか、これって、


「あああっ!?」


 音の正体を悟った瞬間、わたしは自室に向けて全速力で駆け出した。
 そういえばいきなり連れ出されたんで、充電機にさしっぱなしだった携帯電話をそのまま忘れてきちゃったんだ。

 慌てて部屋のドアを開け、携帯のもとに向かうけど、その途端に着信に使ってる音楽が止まってしまった。

 遅かったか。もうちょっと粘ってくれれば、ちゃんと出たのに……。
 でも、そもそも悪いのは、携帯を忘れたわたしか。誰からかかってきたか知らないけど、しょうがないから折り返し連絡を……。


「……ん?」


 携帯を手に取ったわたしは、今の電話の主を調べるために見た着信履歴を前に、思わず固まった。


 ……なぜか、やたらとテニス部メンバーの名前が連なってるんですけど……。


 っていうか、着信の数もメールの数も尋常じゃないよ、これ。
 最初の方なんて数分おきに、入れ替わり立ち替わりって感じで、誰かが連絡入れてる。


 ちょ、ちょっと待って。
 みんなといえば、今、合宿で千葉にいるのよね?
 そりゃ、向こうでの様子を伝えるべく、多少は連絡よこすと思ってたけど……いくらなんでも連絡しすぎでしょ、これ。

 時間を見てみると、10時頃のものが一番多い。
 それから5分、10分と間をあけて、だんだん数が減っていき、つい先程の跡部の電話に至っている。

 でも、着信はまだいい。
 わたしが電話に出なかったせいで、メールの方が、圧倒的にすごいことになっている。

 な、なんか見るの怖いんですけど……。

 だって、未だかつて、わたしは自分の携帯にこれほど集中的にメールを受けたことはない。
 しかも時期が時期だ。もしかしたら、合宿先で何か事故があったのかもしれない。
 はしゃぎすぎたあまり、車道でムーンサルトした向日が車にはねられちゃったとか、つい車道で寝てしまったジローくんが車にはねられちゃったとか……ああっ、どっちも氷帝学園生徒とは思えない、バカっぽい事故っぷりだわ!

 まあ、さすがにそんなことはないと思うけど、だからって事故の可能性そのものは否めない。
 わたしは意を決すると、一番最初のメールから順に開いていった。



『いつまで寝てんだ、てめえ! さっさと起きて、電話に出やがれ!』

『お休みのとこ悪いんやけど、なんとか監督と連絡取ってくれへん? 頼むわ、ちゃん』

『マジでこんなとこで合宿やんのかよ。おまえ、来なくて正解だったかもしれねえぜ』




 ………………?


 わたしから何の反応もないせいで、最初はみんな、寝てると決め込んでたみたい。
 跡部はとても機嫌が悪く、忍足はそんな彼を宥めつつ目的を遂行しようとしてるようで、宍戸はうんざりしたように文句をこぼす――って、そんな感じ。

 届いたメールはほとんど似たような内容で、なんとかして監督と連絡取れとか、マジでここ合宿地? とかいったものばかりなんだけど。


 い、一体何があったんだろう?


 無事に合宿場所には着いたけど、何かハプニングが起きたのかな。
 それで監督の指示を仰ぎたいんだけど、監督がつかまらない……とか。


 そう推測し、さらに未読のメールを開けていく。



『この合宿所、すっげーおもしれー! なあなあ、ちゃんも今からこっちに来て、俺たちと一緒に合宿しよーぜ!』

『廊下を歩いてたら、床がぶち抜けました。本当にここで生活できるんですか? 実は俺たち、監督にだまされてて、先輩もグルになってるとかじゃないですよね?』

『何か面白いダジャレ知らない? 秘蔵のヤツとかあったらおしえてよ』




 ……みんな一体、どんなとこに泊まってんの?

 っていうか長太郎、なんで疑心暗鬼になってるのか知らないけど、わたしは無実よ!
 ジローくんはとても面白がってるみたいだけど、長太郎の様子から察するに、ただ単純に面白い状況とは言い難い模様。
 それから滝、なぜゆえダジャレ? わたしはそんなもの秘めてないよ。

 前半のメールと違い、中盤のメールは、本当に状況が掴めない。
 もしや千葉って、意外にヤバイとこなの? だから監督は、わたしを行かせなかったの?


 この後どうなるのか、わたしはドキドキしながら、残りのメールを読み進めた。



『おでんまいうー!』

『味噌がシャツに飛んだんですけど、シミ抜きするにはどうしたらいいですか?』




 ……楽しそうじゃん、がっくん。
 えーっと日吉、シミ抜きの方法をわたしに聞かれても、ちょっと……。そういう豆知識は君の方が詳しそうなのにな。

 この後も、楽しそうな昼食風景とか、合宿所の意外性などを切々とメールで語られたけど、時間がたって落ち着いたのか慣れたのか、結局みんな、「これはこれで面白い」って結論に落ち着いたみたいだった。

 ただ1人を残して……。


 一段落ついたみんなと違い、跡部だけが、この状況に納得できないみたいだった。
 みんなからのメールが減っていく中、なぜか跡部のメールだけが、やたら増えていく。



『ありえねえ』

『いいかげん電話出ろ』

『俺様からの連絡を無視するとは、いい度胸だな』

『つーかおまえ、何してんだ?』

『声ぐらい聞かせろ、バーカ。バカ

『なんで電話もメールも無視すんだよ』

『マジで何かあったのか?』




 別に無視してたわけじゃないんだよ――と思ったその時、メールの到着を知らせる、短い着信音が。

 今度は誰かと思いきや、珍しいことに、それは樺地からのもので。



『跡部先輩に連絡してあげて下さい』



 うっ……。
 ご、ごめんね、後輩に気遣わせちゃって。
 ったく、樺地にまで心配させるなんて、ほんとに何してんのよ、跡部。


 でも……でもね、そんなこと言いつつも、実はちょっと嬉しいかも。


 みんなと違って、新しい状況をすんなり受け入れられずに、大変な跡部。
 本人はそんなこと認めやしないだろうけど、落ち着きなくメールを送ってくるのって、そのせいだと思うんだ。
 他のみんなが現状に馴染んじゃったから、不満を言えるのがわたししかいないんだろうね。
 結構、精神的にキツイと思う。

 でもそんな中、跡部は、わたしが無反応でいることを心配してくれたんだ。
 ……まあ、普段無駄にやかましい人が急激に静かになれば、確かに気にはなるけどさ。

 本当なら、合宿に行ったみんなのことを、わたしが心配すべきなのにね。
 テニスが好きなみんなを、力いっぱいテニスに専念させてあげるのが、本来のわたしの役目なのに。


 しょうがない。跡部の心配を消すためにも電話してあげるか。
 合宿先がどんなとこが知らないけど、ためこんでる不満もとことん聞いてあげよう。


 でも……「携帯忘れて出かけてたせいで連絡できませんでした」なんて正直に言ったら、大変なことになりそうだ。

−END−

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 涼しいのを通り越して寒くなってきたこの時期に、なぜか夏休みの話(笑)
 き、季節感なくてごめんなさい。

 冒頭でも説明しましたが、これは氷帝と六角の合同合宿という特別企画「ぼくらのなつやすみ」に投稿させていただいた作品を加筆修正したものです。まず最初にそちらを読んで、合宿に至る経緯とか、合宿所での初日風景とかを見ないと、この話はよくわからないかも。

 そちらを見ずに先にこれを読んで「?」となった方、よろしければあらためてこちらをどうぞ。

 そんなわけで、氷帝メンバーと六角メンバーに囲まれて過ごす夏の一時は、本当に楽しかったです。
 ……って、季節はすっかり秋だけど(汗)

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2003.10.18

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