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バレンタインの日から、雅治とつき合い始めて1ヶ月。 そんな、ホワイトデーでもある今日、わたしは初めて、彼の家にお邪魔した。 バレンタインのお返しをしたいと言われたからけど、何しろ男の子の家に行くこと自体が初めてなので、そのせいか妙にドキドキしちゃうんだ。 まあ、わたしと雅治はおつき合いをしているわけなので、お互いの家に行き来することは、とても普通なことであって……でも、「他の家族は、みんな出払ってる」なんて言われたら、変に緊張するじゃないの! 少しは、乙女の繊細な心情を汲み取りなさいよ。 っていうか、わざと? わざとなの? だって、あの男がくれたお返しは、よりにもよってこんなもので―― 「おまえさん好みかはわからんが、せっかくだから、マシュマロでイメージしてみた。あれは、ホワイトデーの定番じゃからの」 「はあ、なるほど……」 受け取ったプレゼントを見て、そのイメージに、大いに納得。 確かに、マシュマロみたいに白くてフワフワした…………………………触り心地のパンツとブラだね。 でも、これってば、あれじゃない? うん、あれだよ。そうに違いない。 あれっていうのは、つまり―― 「セクハラかー!」 それを認識した瞬間、わたしの大絶叫が、仁王邸にこだました。 「セクハラなんてとんでもない!」 わたしの叫びを受け、雅治はわざとらしいまでのしぐさで否定した。 「健康な男子の願望を、ただ具現化しただけじゃ」 「そんなことを真顔で言うな! っていうか、願望の具現化って何よ?」 「そりゃもちろん、私を食べて☆ っつー……こら、暴力反対」 無念。思わず振り上げた拳は、あっさり防がれてしまった。 「な、なんでそんなに露骨なの! そういうことは、もうちょっとオブラートに包みなさいよ!」 腕を取られたままジタバタもがくわたしは、平然としてる雅治がよくわからない。 言われたこっちはすごく恥ずかしくて、わけのわからない、いたたまれなさがあるってのに。 「回りくどいことは嫌いじゃろ?」 「そ、そりゃまあ……」 確かに、変にからめ手で来られるよりは、正面からガツンと来てほしい。 でも最低限、心の準備くらいは、させてほしかった。 雅治とそういうことになるのは、やぶさかじゃないけど、その……彼が求めてることの経験がない身としては、どこまでが冗談でどこからが本気なのかわからないこのやりとりに、どう応えていいのかわからないんだ。 そんなわたしの迷いが、伝わったのかもしれない。 次の瞬間、雅治は正面切って挑んできた。 「じゃあ、もっとストレートに言う。を抱きたい」 それは、あらゆる感覚を奪い取る、衝撃的な一言だった。 驚きで見開いた目は、雅治の真剣な姿しか映さない。 すべての音を遮断した耳は、奥深くで、今の言葉をただ繰り返す。 そして、わたしの腕から伝わる、暖かな彼の温度。 目で、耳で、肌で感じる仁王雅治が、今の一言がいかに本気かを、騒がしいまでに訴えかける。 その、静かでありながら激しい刺激は、目眩を覚えるほどだった。 やがて、すっかり固まってしまったわたしを見て、雅治が苦笑する。 「いきなり襲ったりせんから、そう身構えなさんな。今日は、俺の覚悟を知ってもらえりゃ、それでいい」 「覚悟?」 「だから、を抱きた……」 「わかった! わかったから、2回も言わなくていい! ちゃんと前向きに検討します!」 真っ赤になって大騒ぎするわたしに、さっきまでの苦々しさを消した雅治が大笑いした。 そんな彼は無視して、わたしは慌しく、彼からのプレゼントをカバンに押し込む。 だって、前向きに検討するとか言っちゃったのよ。 それはいつになるかわからない未来のことだけど、わたしは自分の意志で、それを受け入れたわけで。 そして彼のプレゼントは、その象徴ともいえるわけで……それを思ったら、もう恥ずかしすぎて見てられない。 雅治は、バタバタしてるわたしを面白そうに眺めながら、 「せっかくだから、来年のバレンタインは、ぜひ、これのチョコレートバージョンでお願いしたいのう」 というと、やはりチョコレート色のパンツとブラを装着して――わたしを食べて☆ って? 「変態か!」 「人聞きの悪い。男の浪漫と言ってくれ」 そんなことをサラリと言う雅治に、思わずため息がこぼれ落ちた。 勝手なもんね、男の浪漫って。 ……まあ、そうやってブツブツ言いつつも、翌年のバレンタインに、しっかり期待に応えちゃったわたしは、甘いんだろうな。 そう、恥ずかしながら、そういう期待に応えられるようになっちゃったのです。 あれから間もなく、マシュマロ装備で覚悟を決めたら、あっという間に、彼の覚悟も示されたので。 −END−
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